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第22話 「海底牧場の朝」

 ルーチェフォードの海は、朝になると水面の光が、薄い青の膜のように広がる。


 その下へ、ナユカはゆっくりと潜っていた。


 スーツ越しに聞こえるのは、自分の呼吸音だけ。

 周囲には、揺れる海藻と、金色に反射する光の筋。


 そして、そのすぐ後ろを――

 円盤型の旧文明遺物・ピオラが、ふわりとホバリングしながらついてきていた。


――


 今日の依頼は、海底牧場の点検。


 ルーチェフォードには、ラナスでも三番目の規模を誇る海底牧場がある。

 水産ドーム、金属製の柵、養殖ラインが、海底に巨大な“無音の街”のように広がっている。


 基本は自動管理だが、人の目が必要な箇所だけ、サブリックに仕事が回ってくる。


 右腕のスイッチを押すと、ライトが前方を照らした。


(……きれいだ)


 青い光が金属の網に反射し、白い泡がゆっくりと上がっていく。


 静かで、冷たくて――

 どこか、落ち着く場所だった。


 そんな中で、ふと思い出す。


(ラネッサとミリア……最近、なんとなく“間”がある)


 避けられているとは思わない。

 ただ、西口ゲートの一件以来、自分自身がどう振る舞えばいいのか、少し分からなくなっていた。


 話すべきか、待つべきか。

 でも、聞きづらい。


(……カネスの言うとおり、待つしかないか)


 ナユカは余計な雑念を払い、目の前の柵へと近づいた。


――


 そのとき。


 ピオラが、ふ、と小さく震えた。


「……え?」


 スーツの警告音とは違う。

 ピオラ自身が反応している。


 次の瞬間――

 ヘルメットのHUDに、小さな点滅が現れた。


(反応……?)


 ピオラは、海底の“何か”に向かって、水平に動く。


 まるで「こっち」と示すように、静かに水中を滑っていく。


 ナユカは、その後を追った。


 ライトに照らされた先にあったのは――

 金属製の柵でも、設備でもなかった。


 海底の砂に半ば埋もれた、古い石壁。


 崩れかけてはいるが、明らかに人工の線が刻まれている。

 海藻に覆われながらも、どこか異質な存在感があった。


(……遺跡?)


 だが、ラナスの記録に、こんな海底遺構はないはずだ。


「……なんだろ、これ。

 扉……?

 扉にしては……変だな」


 ピオラは壁の前で静止し、表面のランプを一度だけ点滅させた。


「……ピオラ、知ってるの?」


 答えはない。

 ただ、水の流れの中で、静かにホバリングしている。


 HUDに、簡単な表示が浮かんだ。


〈詳細不明〉


 それだけ。


(……ここに“何か”がある)


 それが何なのかは分からない。

 だが、ピオラの反応だけは、はっきりしていた。


 胸の奥が、ざわりと揺れる。


 結のことも、まだ分からない。

 ラネッサたちが何を抱えているのかも、知らない。


 それとは別に――

 ピオラの周りには、確かに別の“謎”が存在している。


――


 点検を終え、海面へ浮上する。


 太陽の光が水を割り、世界が一気に明るくなった。


 ヘルメットを外すと、潮の匂いが強く鼻に入る。


(……なんだったんだろう、あれ)


 ピオラは水滴を揺らしながら、いつもと同じ静けさで後ろを漂っている。


 答えは、まだ遠い。


 海風が吹いた。


 ナユカはそのまま、静かに港へ向かって歩いていった。

 

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