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第21話 「すごいこと」

 ルーチェフォードの夕方は、街灯が点く前の薄い青に包まれていた。


 ナユカは通りを歩きながら、何度もメッセージ画面を確認してしまう。


 ――カネス:時間あるか?


 どういう顔で行けばいいのか、まったくわからない。


 店の前に着くと、すでにカネスが壁にもたれて待っていた。


「おっ、来たな」


「あの……どうしたの?」


「どうしたって、グラが終わったら飯でもどうだって言ってただろ?」


「あ……確かに」


「おいおい、適当に言ってると思ってたのかよ」


「……うん」


「かー、それは誤解も甚だしいぜ。俺、そんなチャラくねぇよ?」


 肩をすくめて笑うカネスにつられて、ナユカも少しだけ笑った。


「よっしゃ。今日は俺がどれだけいい男か、教えてやるよ。

 ついてこい。うまいもん食わせてやる」


 軽口だけなのに、不思議と胸の重さがふっと軽くなる。


――


 店は、大通りから一本入ったところにあった。


 木の扉。

 温かい灯り。

 香ばしい匂い。


(……雰囲気、いいな)


 カネスは慣れた様子で扉を押し、中へ顔を出す。


「よーッス。二人、いける?」


 店主が軽く片手を上げて応えた。完全に常連だ。


 テーブルにつくと、カネスがメニューをぱっと開く。


「好きなもん頼め。なんでもうまいぞ」


「何がおすすめ?」


「まずはこれだな」


 彼が指したのは、三品。


◆ 燻製香るポテトサラダ

◆ ふわとろ卵のハーパー風オムレツ

◆ ローストシード肉のグリル・香草バター添え


 運ばれてきた料理は、見た瞬間でわかるほど丁寧で、味も驚くほど美味しかった。


「……おいしい」


「だろ? 腹いっぱい食えよ」


 ナユカは、食べながらカネスの横顔をちらりと見る。


(……なんか、安心するな)


 胸に詰まっていたものが、少しずつほどけていく。


 自然と、言葉がこぼれた。


「ねぇ、カネス」


「ん?」


「……結〈ノット〉って、知ってる?」


「知ってるさ。言ったろ? 俺はラネッサよりすげぇって」


「うん……でも、冗談だと思ってたから」


「かっかっ。まぁ、普通はそう思うよな」


 楽しそうに笑うカネス。


 だからこそ、ナユカも話した。


 ラナス会議のこと。

 光の板。

 ラネッサの動き。

 ミリアが黙ったままのこと。


 話すほどに、胸の奥の重さが少しずつ外へ出ていった。


 全部聞き終えたあと、カネスは顎に手を当てる。


「なるほどなぁ。で、ミリアは教えてくれねぇと」


「……うん。

 聞きにくくて」


「そっか。じゃあ俺から教えてやることはできねぇな」


「なんだよそれ」


「怒るなって。代わりに――」


 カネスは身を乗り出し、声を落とす。


「すげぇこと、教えてやるから」


「すごいこと?」


「実はな……

 ――――なんだよ」


「…………は?」


「本当さ。ただし一回だけだぜ。

 まだ試したことはねぇけどな」


「試したことないなら、わかんないじゃん!」


「そうさ。信じるか信じねぇかは、お前次第だ」


 にやっと笑うカネス。


 冗談か、本気か。

 まったく分からない。


 それなのに――なぜか、胸がどきんとした。


 不思議な時間だった。

 

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