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第20話 「聞けないこと」

 ラナス会議が終わって、三日が経った。


 ルーチェフォードは、もう完全に“いつもの朝”に戻っていた。


 依頼の調整をする声。

 食堂から漂ってくるスープの匂い。

 廊下を行き交う人々の足音。


 どれも、確かにいつも通りのはずなのに――

 ナユカの頭の中だけは、まだ「西口ゲート」のままだった。


――


 自室のベッドに仰向けになり、天井を見つめる。


 何度も、同じ場面が脳裏に浮かぶ。


 ラネッサの周囲を、規則的に回っていた

 “光の板”のようなもの。


 タイミングを合わせるように動く身体。

 その直後に続く、人間離れした加速と、重さのある一撃。


(……あれ、絶対に“結〈ノット〉”だよね)


 一年半前――

 アシナが見せた、あの訳の分からない力。


 今なら、あれも「結〈ノット〉」だったのだと分かる。


 ただ、あのときのアシナの動きは、もっと荒々しかった。

 形の分からない“何か”に、引きずられているような印象だった。


 それに比べて、ラネッサの動きは――


(……使いこなしてる、って感じだった)


 板が回る。

 タイミングを合わせる。

 そこに、力が正確に乗る。


 単純な「すごい技」ではなく、

 きちんと“仕組み”のある力の使い方。


 考えれば考えるほど、疑問だけが増えていく。


「あれって……何だったんだろ……」


 ぽつりと、声が漏れた。


――


 ベッドから身を起こし、机の上に置いてあった円盤を手に取る。


 ピオラ。


 旧文明の機械。

 今はサブリックの手伝いをしながら、なんとなく一緒にいる“同居人”。


「ねぇ、ピオラはどう思う?」


 光の板。

 ラネッサの動き。

 アシナのこと。


 頭の中の映像を並べてから、半分冗談のように聞いてみる。


 ピオラの表面のランプが、ぽ、と一度だけ光った。

 それだけだった。


「……だよね。聞いても分からないか」


 小さく笑って、手の中でピオラを転がす。


 ミリアにも、結局それ以上は聞けていない。


 あの日、「また話すわ。今日は休んで」と言われてから、

 なんとなく話題を切り出すタイミングを逃し続けている。


 一緒にご飯は食べる。

 仕事の話もする。


 けれど、あの日のことだけは、ふたりとも触れない。


(内緒にする理由が、あるってことだよね……)


 じゃあ、その理由は何だろう。


 危ないから?

 知ってはいけないから?

 それとも――


「……分かんない」


 声に出してみても、答えは返ってこない。


 いつもなら、分からないことがあっても

「まぁいっか」と前を向けるのに。


 今だけは、頭の中でぐるぐる回る疑問が、なかなか消えてくれなかった。


――


 そのときだった。


 机の端末が、小さく震えた。


 ナユカはピオラをそっと机に置き、画面をのぞき込む。


 差出人:カネス

 件名:時間あるか?


(……カネス?)


 胸の奥が、ふっと跳ねる。


 開こうか、どうしようか――

 一瞬だけためらってから、指先がゆっくりと通知の上に触れた。

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