表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/103

第18話 「アストラ代表 ジル・ハウゼン」

 薄暗い室内で、アストラ代表ジル・ハウゼンは額を押さえていた。


「……失敗、か」


 唇が、わずかに震える。


 予定は八日目に前倒しされた。

 それ自体は構わない。


 問題は――

 結果が、この有り様だということだった。


(……あれほど準備したのに。

 全て、失敗とは)


 一度、深く息を吐く。

 指先が、机の縁を強く掴んでいた。


(だがいい。この混乱を利用して

 “会議の継続不能”を宣言する。

 その後、一旦離脱し、主導権を握り直す――)


 それが、ジルの立てていた筋書きだった。


「……撤収だ」


 彼は椅子を立つ。


 アストラは離脱する。

 目的はほぼ達成できる。


 たとえ襲撃が失敗していようと――

 “続行不能”と騒げばいい。


 ドアへ向かいかけた、そのとき。


「おっと。どちらへ行かれるんです?」


 空気の密度が、変わった。


 背中に、ひやりとした感覚が走る。


 振り向けば――


 いつのまにか、

 ラミオ・グラン・アーグレイアが立っていた。


「会議は、まだ終わっていませんよ?」


 ジルは、怒りを隠そうともしなかった。


「何を言っているんですか!

 テロですよ!?

 こんな状況で会議など――」


 ラミオは片手を上げ、

 軽く指を鳴らした。


 ――パチン


 照明が落ち、室内が暗く沈む。


 次の瞬間、

 壁一面、天井、床にまで

 半透明のデータパネルが浮かび上がった。


 金の流れ。

 計画書の断片。

 通信ログ。

 実行犯の身元。


 一つひとつは、見覚えのあるものだった。


 だが、それらが同時に並んだ瞬間――

 意味が、変わった。


「……これは」


 中央に映った名前を見て、

 ジルの呼吸が止まる。


 ジル・ハウゼン。


 喉が鳴る。

 視線を逸らしたくても、逸らせなかった。


 ラミオが、ほんのわずかに口角を上げる。


「いやぁ、我が妻はほんと恐ろしいですね。

 テロの鎮圧が終わる前に、

 ここまでまとめるんですから」


 ジルは、後ずさる。


 床に踵が当たり、

 それ以上下がれないことに気づいて、初めて現実を悟った。


「ま、待て……誤解だ。私は――」


 ラミオは、ゆっくりと歩み寄り、

 首を傾ける。


「で、どうされます?」


 間。


「会議、続けますか?」


 その一言で、

 選択肢が“二つ”しかないことを、ジルは理解した。


 次の瞬間――

 ジルは反射的にデータへ手を伸ばしていた。


「この証拠、消させてもらう!」


 怒鳴り声とともに、飛びかかる。


 だが――

 ラミオの姿が、視界から消えた。


「なっ――?」


 気付いたときには、背後。


 右腕を掴まれ、

 一瞬でねじ上げられる。


「ぐっ……!?」


 関節が、悲鳴を上げる。


「暴れないでください」


 ラミオの声は、あくまで穏やかだった。


「これ以上は、

 あなたの立場が悪くなるだけです」


 抵抗は、意味をなさない。


「さて――戻りましょうか」


 淡々とした声。


「決めなければならないことが、

 山ほどありますので」


 ジルは悔しさと恐怖で言葉を失ったまま、

 ラミオに連行されていく。


 薄暗い室内には、

 浮かんだデータの光だけが残った。


 その光は、

 まるで“逃げ場がない”ことを示すように、

 静かに室内を照らし続けていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ