第15話 「サイレン」
耳を刺すような警報音が、空気を切り裂いた。
胸元のバッジが赤く点滅する。
訓練で何度も見た「警戒レベル3」。
西口ゲートの天井を走る光ラインが、一斉に赤へと変わる。
「……え?」
ナユカは搬入リストのホログラムから顔を上げた。
ついさっきまで海風と機械音しかなかった場所に、急なざわめきが流れ込んでくる。
「全員、持ち場を離れないで!」
管制卓側から、正規警備隊の隊長の声が響く。
西口ゲートは広い。
搬入用ドックが何本も並び、その奥に検査ライン。
だが、警報が鳴っているのに、まだ“何が起きたか”は見えない。
(訓練じゃない……)
喉がわずかに乾く。
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「ナユカ、こっち」
ミリアが呼ぶ。
すでにサブリックのメンバーが、ラネッサの周囲へ集められていた。
ラネッサが正規警備から短く状況を聞き取る。
「……どこ?」
「第3ドック側。搬入レーン手前」
隊員が答える。
「搬入シャトルが一機、命令なしで接近中。
警告に応答なし。識別信号も偽造の疑いあり」
ラネッサは小さく目を細め、すぐ振り返る。
「私たちは第2と第4の間で待機。
命令なしに動かないこと。いい?」
全員が頷く。
ナユカたちは走って、ゲート全体が見える位置へ回り込む。
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第3ドックの先。
海上を滑るように、一機のシャトルが近づいていた。
本来なら外周リングの手前で減速するはずだが――落ちない。
光のガイドラインをかすめて、そのままゲートへ突っ込んでくる。
「減速命令、無視! 停止信号にも応答なし!」
防護フィールドが起動し、半透明の膜が張られた。
次の瞬間――
フィールドの一部が“歪む”。
シャトル前面が淡く光り、空気がねじれ、波紋が走り――
布を破るように穴が開いた。
シャトルはそのまま内部へ滑り込む。
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「第一隊、前へ!」
正規警備の武装部隊が盾を展開し、陣形を作る。
シャトルのハッチが開く。
爆発も炎もない。
代わりに、武装した男たちが静かに飛び出した。
動きは軍人。
散開も早い。
「発砲許可、出てます!」
警備隊長が叫ぶ。
しかし第一射が放たれる前に、男のひとりが手をかざした。
目に見えない薄層――
光線はそこに吸い込まれ、弾かれ、壁に届く前に消えた。
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「後退ライン、一歩下げて! 隊員は前へ!」
正規警備の声。
西口ゲートの空気が、じわりと重くなる。
ミリアが肩を掴む。
「ナユカ、下がるわよ」
「でも――」
「私たちは足手まとい。ここは正規が優先」
ラネッサを見ると、彼女は前方をじっと見据え、“判断の瞬間”を探っていた。
敵と正規警備の距離が縮まっていく。
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先頭の男が、腰の位置にそっと手を添えた。
その瞬間、男の周囲の空気がわずかに沈んだように見えた。
――次の刹那。
足元から“ぶわっ”と風が突き上がった。
押し出されるような衝撃が前方へ広がり、正規警備の盾ごと数名がまとめて吹き飛ばされた。
「っ……!」
重い音が響く。
ナユカが思わず前に出かけた瞬間――
「下がれって言ったでしょ!」
ミリアが引き戻す。
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正規警備が発砲を続けるが、当たっているはずなのに効果がない。
空気の揺らぎが重なり、目に見えない壁に遮られてしまう。
天井の赤い警告灯が、淡々と点滅を続けていた。
ナユカはその光を見上げる。
展開の速さに思考が追いつかない。
恐怖と、驚きと、理解できない緊張が胸へ積もっていく。
だが、目は逸らせなかった。
天井の警告灯は、変わらず赤く点滅している。
――そして同じ頃。
エリド・コンコードの別区画でも、
別の警報が鳴り始めていた。




