第14話 「回り始める歯車」
七日目のGRA警備も、今日まで何事もなかった。
西口ゲートでは物資搬入用のシャトルがゆっくりと往復し、点検リストと照合しては「異常なし」を重ねるだけ。
淡々と続く同じ作業に、ナユカはごく浅く息をつく。
「……ふぅ」
日が傾き、海面が赤く照らされ始める頃には、この日の任務はすべて終わっていた。
サブリックのメンバーとともにゲートを離れる足取りは、初日と比べるとずいぶん落ち着いている。
海風が吹き、遠くで建設ドローンの光が瞬いた。
(……あと少しだな)
ただそれだけを思いながら、ナユカは宿舎へ向かった。
七日目もまた、平和な一日のままだった。
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会議を終え、メインホールを出ると、光の柱が並ぶ回廊に柔らかな夜気が流れ込んだ。
リコルが落ち着いた声で話しかける。
「お疲れさまでした」
ラミオは歩きながら、軽く頷く。
(……思った以上に順調だな)
議題はほぼアーグレイア側の構想どおり進んでいる。
用意した資料も説明も、反対意見を吸収しながら、自然に流れを整えていた。
ただ――
ふと頭をかすめる違和感だけは、まだ消えていない。
(アストラ代表……結局、あれは何だったのか)
芯のない話し方。
視線の揺れ。
論点を掴もうとしない会議運び。
意味があるのか、
それとも単なる無能なのか。
ラミオには、判断がつかなかった。
(まあいい……会議はまとまりつつある)
そう内心で区切りをつけ、ひとつ息をつく。
長い回廊の先で、宿舎棟の灯りが静かに揺れていた。
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薄暗い倉庫区画。
機材の影に、二人の男が沈んでいる。
一人が視線を落とし、短く告げた。
「……決定だ。予定は繰り上げられた」
もう一人が、即座に応じる。
「了解。準備は整っています」
「では、予定どおりに」
「……了解」
それだけで会話は終わった。
二人の影は、音もなく散っていく。
⸻
夕暮れの海風は柔らかく、建設ドローンの光が空にゆっくりと線を描いていた。
ナユカはその光景を一瞥し、今日一日の疲れを小さな吐息に変える。
(……よし。あと少し)
そう思えるくらいには、自分の中に“成長”の感覚が、確かに芽生えていた。
いつもと同じ夕暮れ。
だがその実感が、目の前の景色をわずかに輝かせていた。
⸻
翌日──八日目の昼前。
エリド・コンコード海上都市の一角で、監視システムの表示が一瞬、わずかに乱れた。
アラート音は鳴らない。
担当者も誰も気づかない。
ただ、モニターの片隅が“ちらり”と揺れただけ。
すぐに正常状態へ戻り、ログにも異常は残らなかった。
——予定より早く、
静かに、ひっそりと、
歯車が回り始めていた。




