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第13話 「静かな違和感」

 エリド・コンコード・メインホール──


 七大勢力〈セブンスリンク〉の紋章が静かに浮かぶ円卓の中央で、光の資料がゆっくりと回転していた。


 ラミオは指先で半透明のデータシートを軽く払う。

 ミレイユが用意した“整理資料”が、円卓を囲む各代表の前へ滑らかに分配されていった。


 議論はゆっくりと、しかし確実にアーグレイア案へと寄っている。


 ラミオはその流れを受け止めつつ、内心で小さく息を吐いた。


(……ミレイユは、やっぱり抜け目がない)


 今回アーグレイアが提示したのは、複雑に絡み合った自治圏問題を「誰が見ても理解できる図式」へと落とし込んだ、精密な対案だった。


 具体的には──


・資源配分の完全透明化

・管理権の段階的移譲スケジュール

・治安維持を三勢力合同チームへ委託する枠組み

・各勢力の利益差を自動補正する均衡モデル


 どれも理想論ではない。

 数字と実績、そして既存制度の延長線上で成立している。


 強引さはなく、独自色も必要以上には前に出していない。


 ただ──

 「この流れで進めれば、七勢力すべてが無理なく得をする」


 そう自然に思わせるだけの、構造と説得力があった。


(……準備の密度が桁違いだ。短期間でここまで整えるか)


 胸に芽生えたのは、ほとんど誇りに近い感情だった。


 だが。


 アストラ代表の態度には、どうしても小さな“引っかかり”が残る。


 反論するでもない。

 賛意を示すでもない。


 表情は終始穏やかなのに、指先の動きや視線の置きどころだけが微妙に落ち着かない。


 論点の置き方がわずかにずれ、

 発言には芯がなく、

 言葉の温度と視線の方向が噛み合っていなかった。


(……どうにも噛み合わんな。あれほど視点が揺れるのは珍しい)


 しかしラミオは、それだけで何かを“疑う”ほど軽率ではない。


 あくまで──


「会議慣れした者の仕草ではないな……?」


 その程度の、微弱な違和感。


 確信でも、兆候でもなく、ただ眉が一瞬わずかに動くほどの感覚だった。


 答えがどこにあるのか。

 この時点のラミオには、まだ見えていない。



 同じ頃。


 会議場から離れた、海上の整備区画。


 二人の影が、静かに端末を閉じた。


 声は潜められ、感情の起伏はない。


「……予定に変更。明日の動きに合わせる」


「了解。後は指示通り。痕跡は残さない」


「目標の所在は?」


「移動ルートを確認中。こちらで調整する」


 短いやり取りだけが、冷たい空気に溶けていく。


 熱も、焦りもない。

 そこにあるのは、ただ任務だけだった。


 影は工具と補給資材の間に紛れるようにして、静かに消えた。


 海面の向こうでは、会議場の灯りが遠く揺れている。


 まだ、誰も気づかない。


 均された表面の下で、

 明日の筋書きが、わずかに軋み始めていることに。


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