第12話 「三日目の警備」
GRA三日目の朝は、驚くほど静かだった。
海風が吹き抜ける西口ゲートでは、今日も物資搬入用のシャトルが淡々と往復している。
ナユカは胸元の“GRA”マークに触れた。
支給された警備スーツは圧調整機能付きで、体に吸い付くように軽い。
(……着心地は悪くないんだけどな)
やっているのは、荷物チェックとリスト照合。
異常なし。
また異常なし。
このゲートから要人が来ることはない。
(……三日目ともなると、さすがに慣れるな)
そう思った瞬間、横から声が飛んできた。
「ナユカ、集中切れてる」
ミリアだ。
声は淡々としているのに、よく刺さる。
「き、切れてないよ……」
「単調な仕事ほど危ないの。わかるでしょ」
フォローもない。ただ事実だけ。
それでも不思議と、嫌味には聞こえなかった。
――
昼休憩。
〈GRA・ランチドーム〉は、中央の光柱から枝のように席エリアが広がる構造で、各座席は淡い青のフィールドに囲われている。
ドローンが皿を運び、食べたい分だけ受け取る形式だ。
料理の種類は多いが、人間の文化圏だけで構成された“宇宙”らしく、どれも形は見慣れている。
見た目はどれも豪華というものではない。
だが一口含んだ瞬間、ナユカは小さく目を見開いた。
ちょうどいい塩味。
鼻をくすぐる、控えめな香辛料の匂い。
温度、油、旨味の重なりが、
驚くほど自然に整えられていた。
ミリアと若手二名と同じテーブルで食事を取っていると、横の席から話が転がってきた。
「初日から揉めてるらしいよ。自治圏の件」
若手のひとりが声をひそめる。
「アーグレイアから“ワイズスタッフ”が来てるって話。ほら、ミレイユ・アーグレイアの旦那」
(……へえ。ラミオさんが)
ナユカは目を丸くした。
ミリアがパンをひとかけら割りながら言う。
「流れ、変わりつつあるらしいわよ。
アストラ側が押し切るはずだった議題なのに、ね」
控えめな口調だが、ほぼ確信しているようにも聞こえた。
もう一人の若手が続ける。
「それに対してアストラ側の代表、ちょっと落ち着きがないみたい。
議題の順番変えたり、急に休憩入れたり」
「ああ……そういう人いるよね。会議慣れしてないというか」
ナユカは軽く笑って返す。
そのとき、ミリアだけがほんの一瞬、視線を伏せた。
意味ありげというほどではない。
ただ、“気に留めている”という程度の反応だった。
「まあ、私たちは私たちの仕事を。
何も起こさせないこと」
その言葉に、全員が静かにうなずいた。
――
午後のゲートも平穏だった。
同じ手順。
同じ点検。
夕陽が海面を赤く染めても、変わらない日常のように静かだ。
ナユカは額の汗をぬぐう。
(……あと十日以上、か)
自信と、安堵と、ほんの少しの退屈。
混ざり合った感情が、胸の奥で揺れていた。
海面に反射した光が、ゆっくりと波打つ。
ナユカはその揺れを一瞥し、詰所へと歩いていった。




