第9話 「光柱型情報端末〈コルネット〉とGRA(グラ)」
部屋の照明を少しだけ落とすと、
静かな夜気が落ち着きをくれた。
右手のリストバンドに軽く触れる。
足元から、細い光がまっすぐ立ちのぼる。
半透明の光柱が、天井までふわりと伸びた。
――接続開始。
柱の内側に、無数の画面が貼りつくように展開する。
文字、地図、報告書、簡易映像。
すべて淡く回転しながら、視界を満たす。
耳元で軽い電子音が鳴り、
頭のブレインリングに合わせて光のウィンドウが切り替わる。
ナユカは椅子に腰を下ろし、画面のひとつに視線を合わせた。
「……GRA」
声に出すと、光柱の中へ小さな光の球がスッと入り込んだ。
球体は鮮やかに輝きながら形を変え、
ラナス・エリド地区の都市立体図へと展開した。
ゆっくり回転する都市模型。
その中心に、青白い光の点滅。
――エリド・コンコード。
今回のGRA(銀河地域調整会議)の開催地だ。
画面には淡々と情報が流れていく。
《GRA:銀河地域調整会議
主要七勢力による局長級会合》
――国家元首が来る規模ではない。
外交・安全保障・経済・学術など、実務トップが揃う会議。
情報ウィンドウが、七つの紋章を示した。
・アストラ公域
・アウレン族連邦
・クルシオン帝政圏
・ブラン・アルヴィナ圏
・ユグラーナ星域連合
・エイレネ連合市域
そして
・アーグレイア自治宙域
七大勢力〈セブンスリンク〉。
文字が整然と並ぶだけなのに、どこか背筋が伸びる。
(……本当に全部来るんだ……)
驚きはあるが、声には出さなかった。
淡々と受け止めるしかない。
ウィンドウが自動で切り替わる。
《今回の主議題》
・アストラ外縁部自治圏の独立問題
・星環統合学環(ORB)発足に伴う権限調整
・外縁宙域の安全保障ライン見直し
(大きい……)
局長級とはいえ、
これだけ揃う会議は何十年に一度らしい。
光柱内のウィンドウがさらに開く。
《外縁宙域:過激派動向》
・反結独占派
・外縁自治急進連盟
・アストラ外縁独立派残党 ほか
特に“反結独占”を標榜する派閥は、
七大勢力が結を運用管理していることへの反発が根にある。
――表向きは、結の「解放」。
――裏では、特定勢力の利益保護。
そういったレポートが淡々と並ぶ。
(……情報量、多いな)
ナユカは呼吸を深くして、
ひとつひとつ目で追いかけた。
今回、サブリックに依頼されたのは、
エリド・コンコード西口ゲート周辺の警備補助。
メイン会場からは距離がある。
重要区画ではない。
だが、だからこそ外部委託されるのだと分かる。
(油断したら駄目だな……)
光の網膜に映り続ける報告書。
必要な部分に視線を合わせると、自動的に拡大される。
光柱の中に座り、静かに読み続けていると、
外の空がゆっくり明るくなっていくのが見えた。
ナユカは目を閉じ、息を整えた。
「……準備は、しっかりしておかないと」
その声だけが、薄い朝の空気へ溶けていった。




