第7話 「旅立ちと、外の世界」
朝の光はまだ弱く、町は白い霧に包まれていた。
ナユカたちは、街の外縁にある《リンクステーション》へ向かっていた。
街と街をつなぐ転送施設で、銀河のほとんどの地域で使われている、ごく一般的なインフラだ。
あまり距離が離れていると使用できないが、近くの街へなら問題ない。
――だが、今日はその先へ行く。
ピオラの地図が示した場所《灰帯区域》は、リンク圏の外にある。
転送網の通らない未整備地域で、交通の保証がない場所だ。
危険度そのものは高くないが、誰でも自由に立ち入れるわけではない。
管制局〈サブリック〉の許可証を持つ者だけが、正式に足を踏み入れられる。
モンクルモックの森に最も近いリンクステーションまで移動し、そこからは徒歩で進む。
日帰りできる距離ではない。
そのための準備も、すでに整えてきた。
日常から一歩外へ出る――
その事実を意識しながら、三人は目的の場所へ向かった。
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「……ここまで来ると、空気が違うな」
リンクステーションを抜け、いよいよ《灰帯区域》へ足を踏み出す。
ナユカは小さく、そう呟いた。
整備された街の空気とは違う、乾いた土と草の匂い。
それが混じった“外の世界”の気配が、肌に触れる。
アシナはリュックの肩紐をぎゅっと握り、目を細めた。
「転送って便利だけど……ここからは、自分の足なのね」
その言葉に、少しだけ緊張が混じる。
「まあ、そういうもんだよ。
この星、昔は栄えてたらしいけど、都市圏の外はほとんど手つかずだから」
ジローが苦笑しながら言った。
リンクステーションのゲートを抜けると、空気の密度が変わった。
舗装された通路はそこで途切れ、その先には広い平野が広がっている。
草原。
ゆるやかな丘。
岩の帯。
どれも、地図では薄い灰色で塗られた“未管理区域”だ。
風が吹き、ナユカの髪を揺らした。
街の匂いはすっかり消え、自然そのものの気配だけが胸に残る。
「ジロー、ピオラは?」
「うん。問題ない」
操作パネルに触れると、ピオラのレンズが淡く光り、低い駆動音を立てた。
遺跡までのルートが、宙に立体的に映し出される。
「よし。じゃあここからは……歩きだな。案内はピオラに任せよう」
「いよいよ“冒険”って感じね」
アシナの声は、さっきより少し明るかった。
三人は一瞬だけ顔を見合わせて――
「行こうか」
ナユカが、最初の一歩を踏み出した。
朝の光が、三人の影を長く地面へ伸ばしていく。
その先には、まだ誰も知らない何かが待っている――
そんな予感だけが、静かに胸の奥に残っていた。




