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第7話 「ガイドの仕事」

 ラナスの山々は景観がよく、野生動物も豊富で、観光客が絶えない。

 整備された遊歩道もあるが、昔ながらの“自然の山道”を歩きたい人も多く、

 その案内役を務めるのが、今日のナユカの仕事だった。


 往復で半日はかかるが、危険は少ない。

 今の自分に任されるには、ちょうどいい仕事だ。


 ピオラは軽く浮遊しながら、後ろをついてくる。

 今日は機嫌がいいのか、ときどき「ピッ」と短い音を鳴らした。


「ピオラも楽しいのか?」


 声をかけると、返事をするように淡く光る。


 ナユカは笑い、登山用ベルトに取り付けた小さな装置に触れた。

 円形の薄い機械がふわりと宙に浮かぶ。


 ――ナビ・アロー、起動。


 進行方向を示す光が、山道の先へ伸びていく。

 山の未来ガイドは、昔よりずっと気軽になった。


 斜面に入る手前で、雨粒がぱらぱらと落ちてきた。

 ナユカは軽くレイン・シェルターをタップする。

 頭上で雨粒がふっと逸れ、肩は濡れずに済んだ。


「こういうの助かるな……」


 思わず、そうつぶやく。


 先端科学の道具は、心を軽くする。

 だからこそ、歩きながら自然と“考えごと”が始まった。


 ――あの日、起きたこと。


 アシナの暴走。

 光。

 巨大な、“赤いウロコの竜”のような影。


 あれはいったい、何だったのか。


 アシナが言った「結〈ノット〉」。

 聞いたときは、超能力のようなものだと思った。

 けれど、最後に現れたあれだけは――

 どう説明しても、超能力ではなかった。


「結〈ノット〉って……一体なんなんだ……」


 ナユカはナビ・アローを追いながら、頭の中で整理する。


 結〈ノット〉とは、

 異世界――別の宇宙と“結ぶ”ことで生まれるエネルギー。


 アシナの言葉。

 ジローの曖昧な知識。

 昔読んだ歴史資料の断片。


 それらをつなげても、輪郭ははっきりしない。


(別宇宙の“何”と繋がっているんだ?

 気体? 生命? それとも、エネルギーそのもの?)


 風が草を揺らす音が、耳に届く。


(軍事の道具……とアシナは言っていたけど、

 最初からそうだったのか?

 それとも、使う側が軍事に転用しただけなのか)


 あれは、兵器には見えなかった。


 燃えるような眼。

 恐怖の象徴でありながら、怖いほどの美しさもあった。


 ナユカは、腕輪型情報端末〈リンクレット〉の簡易メモ機能を起動し、宙に浮かぶ文字を見つめた。


 ・結〈ノット〉=別宇宙由来のエネルギー

 ・竜の姿=意味がある?

 ・アシナはなぜ発現?

 ・そもそも「結〈ノット〉」を最初に見つけたのは誰?


(……今の僕じゃ、答えは出ないな)


 そう思っても、不思議と焦りはなかった。


 いつか宇宙へ出る日が来れば、

 きっと“結〈ノット〉”の意味も見えてくるだろう。


 そのために、今できることは一つだけだ。


 目の前の仕事を、ちゃんとこなすこと。


「よし、行くか。ピオラ」


 ピオラは短く淡く点滅し、進行方向へと位置を変えた。


 ナユカは荷物を持ち直し、

 ナビ・アローが示す山道を、さらに上へ進んでいった。


 考えごとをしていたせいか、

 世界が、いつもより少しだけ広く見えた。

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