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第5話 「ブラン・アルヴィナ新教皇」

 白い石で築かれた大聖堂は、朝の光を受けて淡く輝いていた。

 中央にそびえる尖塔の先端には、「白き女神」を象った紋章が刻まれている。

 風を受けるたび、金属が微かに触れ合う音がした。


 結神は本来、信仰の対象ではない。

 世界の深層に接続する“現象”として認識される存在だ。


 それでも――

 この教団は、白き存在を「女神」と呼び、

 救済と秩序の象徴として崇め続けてきた。


 堂内は信徒と司祭で埋まり、

 祭壇の前に敷かれた白布が、一筋、まっすぐ奥へと伸びている。


 やがて、静寂の中で鐘が一度だけ鳴った。


 その音を合図に、奥の扉がゆっくりと開く。


 白衣をまとった人物がひとり、

 ゆっくりと歩み出た。


 新教皇――ヴァルステラ・ルーメン。


 華美ではない。

 ただひどく整っていて、澄ましすぎているほど静かな表情だった。

 歩くたび、裾がさらりと波打つ。


 信徒たちは、息を飲むようにその姿を見守っている。


 壇上に立つと、ヴァルステラは両手を胸の前で組み、

 深く、丁寧に一礼した。


 声は静かで、高くも低くもない。

 ただ、その場の空気を簡単に支配してしまう声だった。


「本日より、この身をもって“白き恩寵の導き”を担います。

 皆と共に歩み、世界の秩序を正しき姿へと導くことを誓います」


 拍手は起こらなかった。

 この教団では、歓声の代わりに静粛こそが最大の敬意だからだ。


 ヴァルステラは、ゆっくりと視線を巡らせる。


「世界には未だ、女神の意志を乱す影があります。

 それらは放置すべきではありません。

 我らは、正しき形へと“整える”役目を負っています」


 語気は強くない。

 だが、“整える”という言葉の奥に、別の意味が滲んでいた。


 前列に並ぶ司祭たちの何人かが、

 ごくわずかに姿勢を正す。

 ほんの数ミリの変化。

 それでも、空気は確かに揺れた。


 ヴァルステラは続ける。


「今後、教団はこれまで停滞していた案件のいくつかを、

 改めて検証し、速やかに判断していきます。

 世界に遅れは許されません。

 女神の光の下、迷いは不要です」


 その“案件”が何を指すのか、

 一切、語られなかった。


 だが壇上近くにいた司祭たちは、

 その言葉を聞いた瞬間、わずかに視線を交わした。


 説明はない。

 確認もない。


 ただ――

「あの一件も動かす」


 そう、理解した。


 堂内の空気が、ひんやりとした静けさを帯びる。


「我らは白き光の道を歩む。

 神意に背く影に、停滞を許してはならない」


 淡々とした声に、信徒たちは静かに頭を垂れた。


 祈りの姿勢がそろうと、

 大聖堂全体が、妙に整いすぎた静寂に包まれる。


 その静けさは、

 どこか張りつめているようでもあった。


 ――この日、

 ブラン・アルヴィナ教団は、静かに方向を変えた。


 その変化が、この宇宙の片隅にいる

 一人の少年の運命に、重くのしかかることを――

 まだ、誰も知らなかった。

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