第3話 「帰り道と反省、そしてゴーシュへ」
森を抜けて街へ戻る道には、夕方の光が差し込み、長い影が伸びていた。
それぞれが歩幅を合わせるでもなく、ただゆっくりと歩いている。
今日同行した七人のうち、前を歩く四人は小声で何かを話していた。
ナユカは後ろで、荷袋の紐を握りしめながら歩いていた。
胸の奥が重い。
今日のことが、何度も頭をよぎる。
グロウムとの距離の取り方を誤り、興奮させてしまった。
荷物を散らかし、ラネッサに助けられた。
求められた道具をすぐに出せなかったことも、何度かあった。
みんなの動きについていけなかった。
――自分の力なんて、この程度か。
一年前の、あの日。
アシナとピオラと共に駆け抜けた出来事。
あれが特別すぎただけなんだ。
自分が強かったわけじゃない。
ただ、運に助けられていただけだ。
そう、胸の中で静かに思った。
「……ごめん。今日、迷惑ばかりかけた」
思わず漏れた言葉に、ラネッサが振り返る。
「そうだな。今日は“0点”だ」
言い切る声は厳しい。
けれど不思議と、胸には刺さらなかった。
淡々とした響きの奥に、どこか柔らかさがあったからだ。
前を歩いていた四人が、ちらりとナユカの方を見る。
表情はそれぞれ違うが、責めるような顔はどれもしていない。
ミリアが小さく笑って、肩をすくめた。
「褒めるところ、ひとつもなかったねぇ。
荷物も散らばったし、グロウムに近づきすぎるし……」
「……はい」
ナユカは、うつむいたまま答えた。
ラネッサが続ける。
「気持ちばかり前に出るのは危険だ、ナユカ。
焦れば焦るほど、判断が狂う」
「……はい」
返事はしたが、胸が軽くなるわけではない。
夕方の風が、少しだけ冷たかった。
しばらく沈黙が続いたあと、前を歩いていた一人が笑った。
「ま、初日なんてそんなもんだろ」
別の一人が、軽く手を振る。
「俺らも散々だったしな。最初は」
四人の声は穏やかで、どこか距離が近い。
淡く輪郭を保ったまま、深く踏み込みすぎない。
その感じが、妙に心地よかった。
街の灯りが、ひとつ、またひとつと点り始める頃。
ラネッサが、ふうっと息をつく。
「……まあ、落ち込むな」
ナユカは顔を上げた。
「今日はお前の“特級デビュー”だろ。
だったら、ちゃんと祝っとくべきだ」
横でミリアが、指を鳴らす。
「そうそう!
ひとまず乾杯しよ。反省は明日。今日は飲も飲も!」
前を歩いていた四人のうち一人が振り返り、笑いながら言った。
「俺らも行くぞ。せっかく七人で動いたんだ、酒くらい良いだろ」
もう一人も、軽く手を挙げる。
「ロウガンのとこ、空いてるといいな」
「今日は私の奢りだ」
ラネッサが短く言った。
その一言だけで、胸の重さが少しほどける。
「……ありがとうございます」
小さくそう言って、ナユカは歩き出した。
夕闇の中、ゴーシュの灯りがゆらゆらと揺れている。
その温かさが、今のナユカにはありがたかった。




