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第1話 「再開」

 朝の空気はひんやりとしていて、ゆっくり吸い込むと胸の奥まで澄んでいくようだった。

 以前よりも、この時間の匂いをはっきり感じ取れる気がする。


 上空の空路をシャトルが静かに横切り、その影が石畳に淡く伸びる。

 通りの向こうではパン屋が仕込みを始め、焼きたての香りが風に混じった。

 遠くには、宇宙港へ向かう輸送船の列が、小さな光の尾を引いている。


 そんな景色の中を、ナユカはいつものように歩き出した。


 一年前の旅は、ナユカの毎日を確かに変えた。

 十五歳になった今でも、あの冒険で見た景色と、胸に残ったいくつもの謎は色褪せていない。


 ピオラは何者なのか。

 遺跡は誰が造り、何のために残されたのか。

 集落で出会った人たちの病気の原因は。


 そして――結〈ノット〉。

 あれが何なのかだけは、まだ言葉にできなかった。


 どれも答えは出ていない。

 それでも、不思議と悲観はしなかった。

 そのうち自分の足で辿り着けるはずだという、確かな感覚だけがあった。


 アシナとの約束も、まだ果たせていない。

 どうすれば会えるのかは分からない。

 けれど、次に会うときに、何もできない自分ではいたくなかった。


 この一年、ナユカは管制局〈サブリック〉の依頼を黙々とこなし、十五歳でランクが昇格した。

 若さを理由に驚かれることもあるが、実感はまだ薄い。

 ただ、ラネッサたちの依頼に同行できるようになったという事実だけは、胸を張れた。


 少しずつ前へ。

 そんな感覚が、ナユカの毎日を支えていた。


 本部の自動扉が開く。

 待ち合わせ場所へ向かいながら、胸元の“銅”の札にそっと触れた。

 にやけそうになるのを必死に押さえたが、それでも口元は緩んでしまう。


 ――ここまで来た。


「おはよう、ナユカ」


 背中から声がかかる。

 振り返ると、ラネッサが腕を組んで立っていた。

 いつもの鋭い目つき。

 けれど、その奥には、ほんの少しだけ柔らかな光が宿っている。


「今日から、私の依頼にもついてこれるんだな。……よろしく」


 言葉自体は簡単なのに、

 そこに乗っている“温度”だけは、はっきりと伝わってきた。


「うん。……ありがとう」


 そう返すと、ラネッサはふっと微笑んだ。

 普段あまり笑わない彼女の、その一瞬の柔らかさが胸に沁みる。


「ナユカ」


 横からミリアが、ひょいと顔を出す。


「うちの仕事はね、覚えること多いよ。今日から、そういう日が続くから」


 声は明るいが、芯があった。

 “大変だけど、ちゃんとついてきな”

 そんな気配だけが、軽く滲んでいる。


 ラネッサが隣で小さく頷く。

 ミリアは「よーし」と拳を握り、笑ってみせた。


 その空気が、ナユカは好きだった。

 居心地がよくて、自分もその輪の中に立てていることが、自然と嬉しかった。


 このときのナユカは、まだ知らなかった。

 この一歩が、再び世界と深く繋がっていく入口になることを。


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