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最終話 「それでも、また」

 宇宙港の光は、真昼の太陽のように強かった。

 人工照明で作られた“朝”の中、アーグレイア本星行きの王族専用艦が静かに待機している。


 搭乗時間まで、あとわずか。


 アシナは王族の紋章を胸に刻んだ簡易正装を身につけていた。

 いつもの旅の服とはまるで違う。

 生まれた場所の空気を纏ったような、どこか遠い存在感。


 その姿を見た瞬間、ナユカは胸の奥が少しだけ痛んだ。


(……アシナ、変わったな)


 いや、変わったのではなく、“戻った”のだ。

 本来の場所へと。


 けれど嬉しさと同じくらい、寂しさもあった。


「……もうすぐ、時間ね」


 アシナは、確認するように言った。

 ナユカの顔を真正面からは見ない。


「うん」


 ナユカも短く返す。

 言いたいことはいくつもあるのに、ひとつも言葉にならない。


 ふたりは、少しのあいだ沈黙した。

 次の言葉を探しているのに、探すほどに見つからない。


 話題を変えるように、

 今日の天気とか、

 ジローの食べ物の好みとか、

 どうでもいい小さな話が続いた。


 本当は違う。

 “今日が最後”であることを、どちらも分かっている。


 それなのに、言えない。


 ふと、アシナが息を小さく吸った。


(言わなきゃ……)


 そう思ったのに、喉が塞がる。


(……ナユカは、迷惑じゃないかな……?

 こんな私が一緒に来てほしいなんて言ったら……)


 アシナは言葉をしまい込んだ。


 一方のナユカも、


(アシナは……僕なんか連れていったら困るよな。

 王族の世界に……)


 胸の奥の言葉を飲み込んだ。


 お互いが“必要としている”のに、最後の一歩が踏み出せない。


 搭乗ゲートのアナウンスが流れた。


 アシナは小さく頷き、ゲートへ向かう。

 ナユカはその背中を見送る。


 距離が広がる。


 これで終わり──

 そんな空気が漂いかけた、そのとき。


 アシナが突然、立ち止まった。


 一秒だけ迷って──

 全力で振り返る。


 そして駆け出す。

 スカートの裾が光の中で揺れた。


「ナユカ!!」


 ナユカが驚いて目を見開く。


 アシナは息を切らしながら、彼の手をぎゅっと掴んだ。


「ナユカ……きっといつか、また……

 一緒に冒険しましょうね!」


 その言葉には迷いがなかった。

 涙も、悲しみも、礼儀もいらない。


 ただの“願い”だった。


 ナユカは、一瞬だけ言葉を失い──

 そして笑った。


「ああ。もちろん。

 次は……次の冒険はきっともっと楽しいさ」


 その返事を聞いたアシナの顔は、少しだけ幼く、そして強く見えた。


 手を離すのが惜しかったが、ゆっくりと指がほどけていく。


 アシナはゲートの向こうへ歩き出す。

 振り返らない。


 振り返ったら泣いてしまうから。


(……ナユカなら、きっとまた)


 アシナはそう思った。


(……いつか絶対……)


 ナユカも、胸の中で静かに決めた。


 ふたりの約束は言葉にならなかった。

 でもそれでよかった。


 言葉にできるものだけが、約束じゃない。



 アシナを乗せた輸送船は、ゆっくりと宙へ昇り始めた。

 白い光の尾が夜空を裂く。


 ナユカはその光が消えるまで、ずっと見上げていた。


 次に出会う時、

 どんな自分でいたいかを考えながら。


 そして第一章の物語は、静かに幕を閉じた。


──ふたりが再び出会う、その日のために。


第一章

「線の上の導因者」

 〜The Trigger on the Line〜

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