表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/103

第55話 「暗闇の裂け目」

 扉を静かに閉めたあと、廊下には微かな気配だけが漂っていた。


「これ使って。ピオラは今、別の能力を使ってるから……」


 そう言ってナユカは、光学迷彩クロークをアシナに手渡した。


 アシナとナユカは、光学迷彩クロークの裾を握りしめたまま、

 まるで息を飲み込むようにして歩を進めた。


 ピオラはアシナの肩のあたりで、かすかな揺らぎとなって寄り添っている。

 ジャミングは生きている──ただし限界が近い。


(……今のうちに、抜けないと)


 アシナは自分の胸の高鳴りが、足音より大きく聞こえる気さえした。


 廊下の角に差しかかったときだった。


 ──足音。


 規則正しい、結査独特の無駄のない歩幅。

 空気が強張り、アシナは反射的にクロークを握りしめた。


 ナユカはそっと指を立て、壁際へアシナを引き寄せる。


 結査隊員が角を曲がる。

 迷彩は働いている──働いているはずなのに、


(……見られる……近すぎる……)


 アシナの肩が震えた瞬間、

 ナユカがそっとその手を握った。


 その温度だけが、唯一の安心だった。


 結査隊員はほんのわずか足を止め、

 気配を探るように首を傾けたが──


 数秒後、何もないというように歩き去った。


 二人は、同時に小さく息を吐く。



 廊下の端。

 監視カメラがひとつ。


 そのとき、ピオラの光が、ふ、と弱まる。


(……まずい……)


 アシナとナユカが身を低くした瞬間。


 監視カメラが、カク、と揺れてこちらを向いた。


 光学迷彩の“乱れた揺らぎ”は、

 肉眼でも“違和感”になる。


 レンズが“そこに何かある”と認識したその瞬間──


 警報が鳴り響いた。


「警戒レベルA──侵入者確認」


「各班、位置につけ」


 廊下の奥から、重いブーツの足音が一斉に走り出す。


「ナユカ……!」


「まだ行ける、走るよ!」


 二人は角を曲がり、別の通路へ飛び込む。


「ジロー、早く!」


 ナユカは祈るような気持ちで、その瞬間を待った。


 結査の足音が迫る。

 的確で、淀みなく、逃げ道をふさぐような動き。


(……追いつかれる……!)


 アシナが歯を噛んだ、その瞬間。

 遠くの方で、金属の軋むような音が響いた。


 一呼吸遅れて──

 施設全体が、突然真っ暗になった。


 照明も、壁面ランプも、非常灯すらも落ちる。


(……ジロー……!!)


 ナユカは息を詰めた。


 同時に、ピオラの光が揺らぎ、

 ジャミングが再び深く広がった。


 暗闇が、味方に変わる。


「アシナ、これ!」


 ナユカが差し出したのは、

 粗末だが扱い慣れた旧式の暗視ゴーグル。

「これは大丈夫。アナログは平気!」


 装着した瞬間、闇の中に淡く輪郭が浮かび上がる。


「行くよ……今しかない!」


 二人は闇に溶けるように走り出した。


 背後では、結査が混乱している。


「非常灯系統も落ちてる!」


「どこへ逃げた!?」


 その中で、ただひとり、落ち着いた声が響く。


「……揺らぎの痕跡は消えていない。

 ──この先だ」


 ラズヴェルの声。


 アシナは唇を噛んだが、

 その手はナユカに引かれて、暗闇の中を駆けていく。


 闇の奥へ。

 冷たい空気の向こうへ。


 二人と一体の光は、

 夜そのものに溶けるように消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ