第52話 「静かな監禁」
意識がゆっくりと浮かび上がる。
目を開けると、白い天井があった。
粗末ではない。
むしろ気味が悪いほど整っている部屋だった。
磨かれた床。
簡素だが上質な家具。
柔らかな光を通す薄幕の窓。
アシナは起き上がる。
身体は自由。痛みもない。
ただ──扉の外に静かすぎる気配があった。
(……結査だ)
息遣いの“均一”さで分かる。
彼らは仲間といるとき、呼吸すら揃える。
控えめなノック。
アシナは心臓が跳ねるのを抑え、返事をした。
「……どうぞ」
扉が音もなく開く。
黒い制服の結査隊員が一人、静かに入ってきた。
先ほど捕えたときの装備ではない。
だが、表情や雰囲気はあの時と同じ──“任務”そのものだ。
「体に異常はありませんか」
淡々とした確認の声。
「……ないです」
「それは良かった」
「ラズヴェル・クロイツァといいます」
「アーグレイア軍、結査部隊・特別判定官を務めています」
「――本件の判断を任されています」
そう言うと、彼は部屋の中央に立ったまま黙り込む。
威圧ではない。
かといって優しさでもない。
“余計な感情を使わない”というだけの沈黙。
その沈黙に耐えきれず、アシナが先に口を開いた。
「……どうして、私を?」
ラズヴェルはほんの少しだけ視線を下げ、ため息ともつかぬ呼吸を漏らした。
「……その疑問を持つのは当然です。
本来なら丁重にお迎えすべき立場。しかし、状況が許しませんでした。これは謝罪します」
深く頭を下げた。
謝罪──結査が?
アシナは一瞬、息を飲む。
⸻
「……あなたが知りたいことを、私がお答えします」
アシナは顔を上げた。
「……全部、ですか?」
「はい。私の権限の及ぶ範囲ではありますが」
「……それが誠意だと思っています」
表情も声色も変わらないのに、嘘はひとつも感じなかった。
「あなたは、自分が“何者か”を知りたいのでしょう?」
胸の奥が強く脈打つ。
どこかで触れたくなかった核心。
でも、一番知りたかった真実。
「……教えてください」
唇が震えていた。
ラズヴェルは一歩だけ前に進み、丁寧に告げた。
「あなたは──」
アシナは息を止めた。
「結神カグラの神契者です」
その言葉は、確認でも推測でもなかった。
すでに結論を終えた者の声音だった。
世界がひっくり返ったような感覚。
立っているはずなのに、床の感触が遠のいた。
神契者。
それは“神と結ばれた者”という意味。
(……私が……結神の……?)
頭が真っ白になり、呼吸の仕方さえ忘れた。
あのアーグレイアの紋章、赤い竜の姿が、脳裏でゆらりと形を取る。




