第5話 「森の巡回」
遺跡探検の話で盛り上がった三人は、一週間後に再集合することを約束し、いったん解散した。
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翌朝。
ナユカは、管制局〈サブリック〉の扉をくぐった。
今日の仕事は、ラネッサと一緒に行う“近くの森の巡回”だ。
「遅いぞ、ナユカ」
「えっ? まだ約束の時間より十分も早いよ!」
「早いのは当たり前だ。プロとしての最低限だよ」
ラネッサは相変わらず厳しい。
だが、その奥にある“気にかけてくれている感覚”は、ナユカにも少しずつ分かるようになっていた。
口調は厳しい。
けれど、どこか優しい。
「今日は森の〈外周〉をぐるっと回る。
危険は少ないが、油断はするなよ」
ナユカは頷き、二人は並んで森へ向かって歩き出した。
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森へ向かう道中。
ナユカは、ずっと胸の中で引っかかっていた疑問を口にした。
「ねえラネッサ、この街って……ランクの高い人、多くない?」
「多いさ。こんな規模の街じゃ、普通はあり得ないな」
「なんでなの? 珍しいよね?」
ラネッサは、少しだけ表情を緩めた。
「理由か……まぁ、気に入ってるんだ。この街が」
「私だけじゃない。ガルドやミリアだって同じ理由さ。
それにな、高ランクと言えば……酒場の《ゴーシュのマスター》もそうだし、
あの酔っ払いのカネスだって、昔はそうだったんだぞ」
「……えっ? カネスさんが!?
あの、ベロベロに酔って道端で寝てるカネスさん!?」
「昔は、私より強かった」
「嘘でしょ……」
「本当さ。若い頃はな……
今では、私のほうが上だがな」
ナユカは、思わず不思議そうな顔になる。
「静かで、優しくて。
余計な争いも、派閥もない。
銀河の最前線より、ここで暮らしたいってやつもいるんだ」
ラネッサは、諭すように言った。
その背中は広く、頼もしい。
けれど――ときどき、ナユカの知らない“重さ”が混ざる気がした。
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やがて二人は、森の入口へ到着した。
朝の空気はひんやりしているが、
森の奥からは、獣の気配がうっすらと漂ってくる。
「ナユカ、これ持ってけ」
ラネッサは、フォージペンダントを差し出した。
球状(直径約二センチ)の多目的ペンダント型デバイス。
握ることで起動し、使用者の拳の上に力場を形成する。
力場は“光の刃”として可視化され、見た目は剣やナイフを握っているように見える。
「今日は使わない……はずだがな」
「ありがとう」
森の中へ進むと、ラネッサの声が少し低くなった。
「……最近、この森に“危険な生物”が増えてる」
「危険な生物?」
「ああ。様子のおかしい個体が、頻繁に目撃されてる。
実際に被害も出てるんだ。
環境変化か……それとも、何か“外”に原因があるのかもな」
「外?」
「ああ……最近な、この星の空気が、少し変わってきてる。
危険薬物の製造、密輸……」
ラネッサの表情は、いつもより鋭かった。
(……ラナスに?)
ナユカは、信じられない思いで胸の奥がざわつくのを感じた。
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――その後、二人は一通り森の巡回を行った。
獣道の痕跡を確認し、
異常な植物の繁殖具合を調べ、
危険原生種の足跡が新しいことにも気づく。
ラネッサの眉間に、皺が寄る。
ナユカも、緊張して周囲へ目を配った。
だが幸い、敵影は見つからず、
ひとまず外周の確認は無事に終わった。
「ナユカ、鍛錬はちゃんと続けてるか?」
「え? 一応……毎朝やってるけど」
「それを続けろ。積み重ねは、裏切らない」
ナユカは、素直に頷いた。
「あとな、無茶はするなよ。
お前は無鉄砲なところがあるからな」
「うん、わかってる」
「お前は“わかってない”から言ってるんだよ」
そう言って――
ラネッサは、ナユカの頭を大きな手でくしゃっと乱した。
「わっ……!」
「よし、戻るぞ。今日はここまでだ」
少し間を置いて、ラネッサは続ける。
「フォージペンダントはやる。
……ただし、危ないことには使うなよ」
その声は、いつも通りぶっきらぼうなのに、
どこか安心させるあたたかさをまとっていた。
ナユカは小さく息をつき、
ラネッサの背中を追いかけるように歩き出した。




