第49話 「第三の光」
静寂だけが広がる石のホール。
三番目の遺跡は、これまででいちばん“何もしてこない”場所だった。
敵意も、揺らぎも、仕掛けもない。
ただ古代の構造物が静かに眠っているだけ──そんな印象すら覚える。
三人が遺跡に“慣れてきた”だけなのかもしれない。
だが、それでもどこか異質だった。
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円形の中央へ、ピオラがふわりと進む。
青白い光が立ち上がり、ピオラを包む。
遺跡と同期し、情報を受け取る──三つ目までと同じ流れ。
そこまでは、いつもと変わらなかった。
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──だが。
光が収まった“あと”。
ピオラの内部で、濃い青の脈動が生まれた。
深く、静かで、底の見えない──
まるで誰かの心臓の鼓動のような光。
「……今の、何?」
ナユカが小声でつぶやく。
「今までと違うのは……確かだな」
ジローも困惑した表情を隠せない。
ピオラは何も語らない。
ただ深く息をするように、淡い青光をたたえている。
“何かを得た”──それだけは確かだった。
だが、それが何かはまったく分からなかった。
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遺跡を出ると、冷たい夜気が頬を刺した。
三人は岩に腰を下ろし、黙って息を整えた。
「……結局、答えは出ないままか」
ナユカが空を見上げる。
「ピオラの正体も」
「病気の原因も」
「アシナの力も」
ジローが並べるが、どれも霧の中だ。
アシナは拳を握ったまま俯く。
ピオラの新しい脈動だけが、“何かが変わった”ことを示している。
だが──その意味だけが掴めない。
「……帰るしかないね」
ナユカの声は、疲れと諦めが入り混じっていた。
三人とも、スッキリしない。
旅を総括するほど、迷いだけが濃くなる。
「手がかり……ないよな」
「うん……」
アシナが静かに答える。
そのとき。
ピオラが小さく震えた。
「……ピオラ?」
遅れて、三人も“違和感”に気づく。
──何かがいる。
アシナの表情が一瞬で強張った。
「………!」
三人が立ち上がる。
だが──遅かった。
背後の森が、かすかに揺れた。
風でも、鳥でもない。
気配が“消されていた”のに、そこだけ自然の綻びが生まれたような──そんな動き。
次の瞬間、空気がわずかに屈折する。
まるで空間そのものが脱ぎ捨てられるようにして、
光学迷彩を解除した白銀の装備が姿を現した。
一人、また一人。
木々の影から、地形に溶けていた輪郭が連なるように浮かび上がる。
音もなく、乱れもなく──
訓練された者にしかできない精密な包囲が、すでに完成していた。
アーグレイア軍・結査部隊。
「……どうして……ここに……?」
アシナの声は震えていなかった。
ただ“理解できなさ”だけが滲む。
「対象、確認──」
先頭の隊員が、ヘルム越しに淡々と告げる。
「捕獲に入る」
三人は息を呑む。
次の瞬間には悟っていた。
ここから先──
旅はもう、“ただの探索”ではいられなくなる。




