第39話 「静かに語る遺跡」
三人は森の奥で足を止めた。
何もないはずの空間が、ふいに“揺れた”。
「……ここ、だよね?」
ナユカが眉を寄せる。
ピオラがふわりと浮かび、何かを探るように周囲を旋回する。
その軌跡に沿うように、薄い光のひび割れが、空気の中に走った。
「……隠れてる」
アシナが息を呑む。
目を凝らすと、木々の間に“亀裂のような線”が現れる。
そこだけ、空気が別の位相で揺れているようで──
ピオラが触れた瞬間、音もなく、景色がほどけるように消えた。
石柱。
淡く光の残る壁。
静まり返った巨大なホール。
第二遺跡は、最初から森の中に“あったのに、見えていなかった”だけだった。
⸻
「……ガーディアン、動かないね」
ジローが周囲の影を、一つひとつ見ていく。
前回、命を狙ってきた守護者たち。
今日はただ佇んでいるだけで、まるで“壊れた像”のようだった。
「ピオラの……せい?」
ナユカの小声に、ピオラは答えず、小さく光を震わせただけだった。
その震えが、呼ばれるように、中央の“光の柱”へ向かう。
──青白い光が、ピオラの内部で、ゆっくり回転し始めた。
「……吸われてる?」
「いや……取り戻してる、って感じ」
言葉が自然に漏れる。
説明できない。ただ、そう“感じる”だけだった。
光は淡く脈打ち、ピオラの体が一瞬、輪郭を失った。
前回は戦闘中で、見られなかった現象。
三人は思わず息を呑む。
──遺跡とピオラは、明らかに繋がっている。
⸻
「……これ、見て」
ナユカが、壁の一角を指した。
古代の紋様に混じって、小さな刻み傷のようなものがあった。
誰かが刃物で描いたような、不規則な線。
「落書き……?」
「わかんない。でも……神殿に、こんなの変じゃない?」
アシナも覗き込む。
アシナは、その刻み傷に、迷いながら刻まれた手の跡を見た気がした。
丸、三角、棒線。
意味不明。だが──何かを“試していた”ような跡にも見える。
「これも……遺跡の一部なんだよね」
ジローが囁く。
誰も、答えられなかった。
光が収まり、ピオラは三人のもとへ戻ってくる。
何も言わない。ただ、以前より“深く”光って見えた。
ふと、ナユカは横目で仲間を見る。
アシナは、まだ完全に戻らない体で、それでも立っていた。
ジローは、不安をごまかすように装備を整えている。
誰も言わないけれど──
ここで“戻る”という選択肢は、もう存在していなかった。
止まったら、取りこぼしたものが、一生手に入らなくなる気がした。
この先に答えがある、と、全員がどこかで確信していた。
「……行こっか」
ナユカが言う。
「うん。次の遺跡へ」
アシナが微笑む。
「謎、増えるばっかりだけどね……」
ジローが肩をすくめる。
でも、その声には、もう迷いはなかった。
三人と一体のように寄り添うピオラが、
次の方角を、静かに照らしていた。




