第38話 「残された謎」
一日後、森の空気はようやく静かさを取り戻しつつあった。
アシナは横になったまま、まだ完全には目を覚まさない。
一晩中、限界まで力を使い続けた反動だ。
治療を受けた者たちは、全員が助かったわけではない。
それでも──助かった者たちは、誰もが皆、言葉にならないほどの感謝を口にした。
代表の男は深く頭を下げた。
その大柄な背が、今は妙に小さく見えた。
「恩人……などという言葉では足りません。
……生涯かけても、返しきれない借りを作ってしまいました」
隣で、少女が静かにうなずく。
泣きはらした瞳をして、それでもしっかりと三人を見つめていた。
「……お母さん、少しだけだけど……元気になった。
お姉ちゃんたち……ありがとう」
完全に治ったわけではない。
だが、死の淵から引き戻された命が、確かにある。
そして──回復した者のごく一部には、奇妙な変化が残っていた。
「手の先が……ほら、ちょっとだけ光るんだ」
指先で小さく散る、火花とも光粒ともつかない反応。
アシナの治療の“余波”。
けれど、それが何を意味するのかは、誰にもわからない。
三人は治療を終えたアジトを後にした。
去り際、少女が小さな手を、いつまでも振っていた。
⸻
遺跡への道すがら、ナユカたちは、これまでの出来事を整理していた。
「……分からないことばっかりだな」
ナユカが息を吐く。
「ピオラは何者なのか。
病気の正体も分からない。
森で襲ってきた、あの人たちは、なんで“力”を使えたのかも分からない」
ジローも腕を組んだまま、深くうなずく。
「しかもアシナも……
契約してないのに、“力”が使える理由が分からない」
二人の視線が、まだ完全ではないアシナへ向いた。
どれも手がかりがなく、謎だけが残っている。
けれど──立ち止まる理由もなかった。
「……遺跡に行くしか、ないんだよね」
ナユカが小さな声で言う。
「うん。そこに何かあるはずだ」
ジローも静かに答える。
アシナはまだふらつくが、歩ける程度には回復していた。
ピオラは、アシナの肩に寄り添うように浮遊している。
三人と一体であるかのように。
⸻
一方そのころ──アーグレイア軍内部。
《アーグレイア結査部隊・観測局》
「……見ましたか?」
若い分析官が、小さな波形を示す画面を指した。
「揺らぎの……ほんの一瞬の波。
ノイズかと思いましたが……」
「ああ……確かに反応してるな。
間違いじゃないのか?」
それは、誤作動として処理しても、まったくおかしくない
“一瞬の異変”。
だが──結査部隊は、違和感を見逃さない。
「念のため、記録しておけ。あとで照合する」
「了解です」
それだけのやり取りで終わるほど、小さな、小さな違和感。
だが、この瞬間をきっかけに、
世界の流れが、静かに、しかし確かに動き始めていた──。




