第28話 「2番目の遺跡へ」
港街イラセアを離れてしばらく歩くと、海の匂いは薄れ、かわりに湿った土と草の匂いが強くなっていった。
足元の感触も変わる。
石畳の硬さは消え、靴底に柔らかい抵抗が返ってくる。
踏み出すたび、わずかに沈み、また戻る。
ピオラの地図によると、遺跡のある場所までは遠い。
さらに舗装されているのは最初の数キロだけで、あとは草地と林の道だ。
ピオラは一定の間隔で電子音を鳴らし、進行方向を示してくれる。
小さく回転しながら、高度データや風の影響を補正しているように見える。
「ピオラ、本当に頼りになるわね」
アシナが呟く。
ピオラは返事をするでもなく、淡く光ったまま前方を指し示していた。
――
道中、ちょっとしたトラブルが続いた。
足首を取られるような湿った地面。
低木に隠れていた深めの水たまりにジローが片足を突っ込む。
風で飛んだ木の実が頭に落ちて、ナユカが小さく悲鳴をあげる。
「うわ、冷たっ……」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫……たぶん」
大したことではない。
だが街とは違う環境だということを、三人は少しずつ、身体で理解していった。
足運びは慎重になり、無意識に互いの距離も近づいていく。
――
森の密度が増してきたころ、アシナがふと足を止めた。
「……人が通った跡がある」
示されたのは、草が帯状に押し倒された浅い道。
踏み荒らされたというより、何度か往復したような形だった。
「靴、だよね?」
ナユカがしゃがみ込み、跡を覗き込んだ。
「ライン外の人かもしれないわ。ここまで来ることもあるでしょうし」
アシナは淡々と分析する。
ジローは周囲をぐるりと見回した。
「……まあ、この広さなら、誰が通ってても不思議じゃないか」
そう言いながらも、視線は自然と林の奥を追っていた。
三人は再び歩き出す。
ピオラが低く電子音を鳴らし、ほんの少し進路を修正する。
そのたび三人は立ち止まり、指示に従った。
――
やがて木々の切れ間から、小さな空き地が見えてきた。
畑だった場所が放置されたような地形。
低い柵が朽ち、数本の柱だけが風に揺れている。
耕されていたはずの土は固く、
雑草が遠慮なく根を張っていた。
「……集落の跡、かな」
ナユカがつぶやく。
「昔は人が住んでいたんでしょうね」
アシナは柵の残骸を避けながら辺りを見回した。
ジローがピオラを確認し、軽く手をあげる。
「ここを抜けて行くルートで合ってるよ」
「なら、通り抜けましょう」
三人は草を踏みしめ、空き地を横切った。
ナユカは、なぜか背中に視線を感じるような気がして、
一度だけ振り返った。
もちろん、そこには何もなかった。
鳥の声が遠くに響き、風が草を揺らす。
ただそれだけが耳に残る、静かな道だった。




