表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/105

第27話 「光と影のバランス」

 露店の並ぶメインストリートは、昼の熱気に満ちていた。


 蒸した貝の香り、揚げ油の弾ける音、

 海藻紙で包んだ菓子を売る声――

 どこを見ても人の流れが絶えず、街の勢いそのものが視界を押してくる。


 ナユカは目を輝かせ、ジローはあちこちの店舗を覗き込んで忙しい。

 アシナだけは必要な道具を淡々と選び、手際よく会計を済ませていた。


「すごい賑わいだね……」

 ジローが思わずつぶやく。


「イラセアは海路の要衝だもの。物資が集まれば、人も金も動くわ」

 アシナは淡々と返したが、その目にはわずかに柔らかさがあった。


――


 買い物を終えて市場を抜けると、

 賑わいは途切れ、街道の脇に古い防潮壁が続いていた。


 潮の匂いが、少しずつ薄れていく。

 代わりに、湿った石と、長い年月を吸った木材の匂いが混じり始めた。


 人の声も減り、

 足音だけが、壁に反射して返ってくる。


 同じ都市の中にいるはずなのに、

 さきほどまで歩いていた通りとは、まるで別の場所に足を踏み入れたようだった。


 そこで、店の荷を運んでいた初老の男が声をかけてきた。


「おい、そっちは行かないほうがいい」


 三人が足を止めると、男は顎で奥の細い路地を示した。


「観光ならな。あっちはライン外だ。

 表の通りはきれいだが、一本外れると景色が違う」


 男はそれだけ告げ、荷を担ぎ直して去っていった。


 道を進むと、古びた壁の影に小さな視線が揺れた。


 子どもたちが三人。

 服は薄く、体は細い。

 その目だけが妙に、周囲の空気を読むように鋭い。


 ナユカが気づいて足を止めると、

 子どもたちは一瞬こちらをうかがい――

 音もなく散るように走り去った。


「……逃げた、のかな」

 ジローがつぶやく。


「様子を見ただけよ」

 アシナが小さく首を振る。


「王都にも似た場所があるの。

 ああいう子たちを、ときどき見るわ」


 アシナは、ほんの一瞬だけ足を止めてから答えた。


「様子って……?」

 ナユカが続けて聞いた。


「相手が怖がってるか、追い払う気か、

 逆に隙があるか……そういうの。

 でも大半は何もしないで離れるわ。

 怖いし、揉めたくもないでしょうし」


 淡々とした声。

 語りすぎず、知ったふりもしない。

 ただ“見たことがある”という程度の温度。


 それでも、ナユカの胸には、

 言葉にならない引っかかりが残っていた。


 あの視線は、敵意でも、助けを求めるものでもなかった。

 ただ、こちらを測るような、距離を確かめるだけのもの。


 ナユカは、振り返りたい衝動を抑えた。

 路地の奥に、何かを置き去りにしてきた気がしたからだ。


――


「……気をつけないと、だね」

 ジローが紙袋を抱え直す。


「そうね」

 アシナが息をひとつつく。


 港の光は遠ざかり、

 都市の影が少しずつ濃くなる。


 三人は再び歩き出した。

 それぞれの胸に、違う重さを抱えたまま。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ