第26話 「急ぐ気持ち、立ち止まる理由」
イラセアの港風が吹き抜ける広場で、三人は足を止めた。
石畳の通りには潮の匂いが染みつき、古い倉庫を改装した店が軒を連ねている。
荷を下ろしたばかりの貨物艇が低い音を立て、港湾クレーンの影が、ゆっくりと地面を横切っていた。
観光地ほど賑やかではないが、行き交う人々の足取りは軽い。
「……よし。すぐ遺跡へ向かいましょう」
アシナは振り返りながら、きっぱりと言った。
「ちょっと待ってよ。休憩くらいしよう」
ナユカが思わず言い返す。
「そんな時間ない!」
珍しく、アシナの語気が強くなる。
その直後――
ぐぅ……。
わずかな音に、三人の間へ沈黙が落ちた。
ジローは気まずそうに視線を落とす。
「……ほら」
ナユカが小さく言った。
アシナは数秒、何も言わずに立ち尽くしたあと、ふっと息を吐いた。
「……確かに、お腹は減ってるかも」
一瞬だけ苦笑いを浮かべ、眉をわずかに寄せる。
――
海沿いの露店街は、香ばしい匂いと潮風で満ちていた。
揚げ物のはぜる音、香草の香り。
さっきまでの焦燥とは別の時間が、そこには流れている。
三人は名物の屋台に立ち寄った。
屋台の主人が手際よく串を返し、油の弾ける音が小気味よく響く。
焼き色のついた魚介に、刻んだ香草と酸味のあるソースがかけられた。
「はい、イラセア名物だよ」
紙皿を受け取ったナユカが、熱そうに息を吹きかけてから一口かじる。
「……あ」
間の抜けた声。
「……美味しい?」
ジローが少し身を乗り出す。
「うん。なんていうか……揚げてるのに重くない。
香草が効いてる」
アシナも半信半疑のまま、串を持ち上げる。
一瞬ためらってから、そっと口に運んだ。
「……」
噛んだ瞬間、目を見開く。
「……美味しい」
思ったより率直な反応に、ナユカが思わず笑った。
「でしょ」
アシナはもう一口食べて、ようやく肩の力を抜いた。
「……こんな味、久しぶりかも」
その声には、さっきまでの焦りが少しだけ薄れていた。
「……ごめん。焦ってた。悪かったわ」
アシナが静かに言う。
「気にしないよ」
ナユカは肩をすくめる。
「どうしていいかわからないときって、気持ちが先に走っちゃうよね」
ジローも小さく頷いた。
「ぼくたちだって急ぐつもりだよ。
でも、このまま突っ込んだら危ない。
道具も補給しないといけないし、準備しないと――逆に遅れる」
「……そう、ね」
「ピオラのマップによると、遺跡までかなり距離がある」
ナユカが軽く足を伸ばす。
「だから、休憩も含めて準備して行こう。
整ったら、すぐ出発しよう」
アシナは静かに息を吐き、頷いた。
「……うん」
潮風が吹き抜け、三人の紙袋がかさりと揺れる。
先ほどまで張りつめていた空気はやわらぎ、
一歩踏み出す足取りが、わずかに軽くなっていた。




