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第24話 「情勢」

――半年前――


 第三王子陣営


 アーグレイア王城・西翼政庁棟。

 夕陽が長い影を伸ばし、古い石床に淡い橙を落としていた。


 ヴォルニア将軍は、机に積まれた報告書をひとつ閉じ、周囲の参謀たちへ目を向けた。


「……第二王子殿下は、今日は東区の経済協議に出られたそうです」


「ほう。またか。実に熱心なことだ」


 将軍は肩を揺らして笑う。


「市場、随分と落ち着きましたね。

 殿下が経済省の管轄に入られて以降、商会の動きも滑らかです」


「母君が商家の出身だからな。

 ああいった方面は得手なのだろう」


 淡々とした言葉。

 将軍にとっては、“意外性のない評価”でしかない。


「記録局統合の最終承認も、経済省が受け持つことで決着したようです」


「ふむ……財務省も認めたのだろう?

 あそこがなんだって言うんだ」


「ええ。表立った異論はありません。

 庶務部署との兼務もあり、経済省の手際を買われたようで」


「なら良い。第二殿下は継承権では劣るが、有能ではある。

 我らとしても助かる」


 将軍は椅子に深く座り、ようやく息をついた。


「第一王子派も、これでは押し返せまい」


「軍を押さえる我ら、経済を整える第二殿下。

 盤石、というほかありませんな」


「本当に……これほど順調に運ぶとは」


 参謀たちの声には、静かながら確かな自信があった。


 窓の外には、活気を取り戻した市街が広がっている。

 物流は整い、商会連合も勢いを増し、第二王子の名は庶民の間でも頻繁に聞かれるようになった。


 だが、その評価はあくまで、


「手腕のある王族」


 の範囲に収まっている。

 第三王子陣営は、それ以上を想像しなかった。


 夕刻の鐘が遠くで鳴った。


 紙を整える音、筆記具が静かにしまわれる音。

 政庁らしい規律正しい気配が部屋を満たす。


 その秩序の中に、ごくかすかな――

 気配とも、風の揺らぎともつかないものが混じった。


 だが、誰も振り返らなかった。


「……これで第一派も、さすがに打つ手はあるまい。

 王位の行方は――ほぼ決したな」


 将軍の言葉に、参謀たちは異論を挟まずうなずいて資料を閉じていく。


 灯りがひとつ、またひとつ落とされる。

 夜の静けさが、ゆっくりと室内に降りてくる。


 誰の顔にも、わずかな不安すら浮かんでいない。

 長い緊張がほぐれ、勝利が確定したかのような――

 確信と余裕があった。


 まるで、自分たちの勝利が

 “すでに歴史の既成事実”ででもあるように。


 その静けさの中で。


 壁に掛けられた古い計測盤が、

 針をほんのわずかに震わせた。


 だが、その変化に気づく者は誰ひとりいなかった。

 将軍室は、勝利の空気のまま、静かに夜へ沈んでいった。

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