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第21話 「結〈ノット〉」

 焚き火は低く、安定して燃えていた。

 ぱち、と小さく弾ける音だけが、森の夜をつないでいる。


 アシナは少し離れた場所に座り、しばらく炎を見ていた。

 顔色はまだ戻りきっていない。けれど、目はもう逃げていなかった。


「……聞いてくれる?」


 ナユカとジローは頷いた。

 アシナは一度だけ息を整えてから、言った。


「全部は話せない。……でも、“いま必要なこと”は話す」


 焚き火の光が、アシナの横顔を照らしては暗くする。


「まず、私は、アーグレイアの王族よ。第六王位継承者。――それが事実」


 ジローが一瞬、固まった。

 ナユカは笑おうとして、失敗した。喉が乾いて、音が出ない。


「対外的には“外交官の娘”って建前になってる。

 亡命って言うほど派手じゃないけど……“建前上の留学”みたいなもの」


 アシナは淡々としていた。

 淡々としているぶん、作り話には聞こえない。


「……じゃあ、今日のあれは?」


 ナユカがようやく言葉を見つけると、

 アシナは少しだけ視線を落とした。


「……あれは、多分……私が知っている力だと思う」


 火が、ぱち、と鳴った。


「“結〈ノット〉”って言葉を聞いたことはある?」


「結〈ノット〉……?」


「別の宇宙の原理を、こちらの世界に“結ぶ”力。

 魔法って言い方でもいいけど……本質は違う」


 アシナはそこで一度区切った。

 説明を急ぎすぎない、ちょうどいい間だった。


「この宇宙には、“神”みたいな存在がいるわ。

 宗教の神じゃない。人格があるかどうかも分からない。

 ……でも、力そのものみたいに“在る”存在」


 ナユカは言葉を飲んだ。

 ジローも、薪をいじる手を止めている。


「それと人が契約すると、結〈ノット〉が使える。

 便利な超能力じゃない。軍事目的の力よ。

 国家が持つ理由がある」


 アシナは自分の手のひらを見つめた。

 そこに何かが残っているみたいに。


「私は……今日、多分、それが出た。

 制御できない形で」


 ナユカは思い出して、背中が冷たくなった。

 ガーディアンが吹き飛んだ瞬間の、空気の裏返り。


「でも、どうして急に?」


 ジローが訊く。

 アシナは首を横に振った。


「分からない。……分からないけど」


 少しだけ、声が揺れた。


「遺跡が関係してるんじゃないかと思う。

 ……直感だけど……」


 ナユカは、返事ができなかった。

 否定も肯定もできない。けれど、“分かる”気がした。


 アシナは二人を見た。


「だから、もう一度別の遺跡に行く。

 自分が何を抱えたのか、確かめないといけない」


 焚き火の光が、三人の間に影を作る。

 その影は揺れて、また繋がった。


 ナユカの胸が高鳴った。

 怖さもある。けれど、それ以上に――強烈な興味が勝っている。


「……行くの?」


 ナユカが言うと、アシナははっきり頷いた。


「行く。

 それで、もし危ないなら……その時は、ちゃんと止めて」


 頼る言い方じゃない。

 協力を求める言い方だった。


 ジローが小さく息を吐いた。


「……分かった。アシナに付き合うよ。

 でも、行くなら準備は必要だ。

 次は“逃げるだけ”じゃ済まないかもしれない」


 ナユカも頷いた。


 焚き火の光が三人の顔を照らし、陰って、また照らした。


 世界が、ほんの少し広がった瞬間だった。

 

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