第20話 「火のそばで」
夜の森は、いつもより静かだった。
風の音も、遠くの獣の気配も、どこか抑え込まれている。
コンパクトテントポッドの薄布越しに、三人は横になっていた。
呼吸の音だけが、微かに重なっている。
やがて――
アシナが、ゆっくりと目を開けた。
「……アシナ、大丈夫?」
ナユカが、声を落として問いかける。
アシナは小さく瞬きをし、少し間を置いてから、かすかに微笑んだ。
「ええ……もう、落ち着いたわ」
その声は弱いが、途切れてはいなかった。
「覚えてる? 遺跡でのこと」
アシナは天井を見つめるように視線を漂わせ、
一瞬だけ、言葉を探すように唇を閉じた。
「……覚えてる。全部、じゃないけど」
「じゃあ、あれは……なんだったんだ?」
ジローが、思わず身を起こす。
けれどアシナは、すぐには答えなかった。
胸の前で、そっと手を重ねる。
「……少し、時間をくれないかしら。
いろいろ……整理したくて」
震えはない。
けれど、その声には、はっきりとした重さがあった。
ナユカとジローは、それ以上を聞かなかった。
言葉を挟めば、何かが壊れてしまう気がした。
二人は静かに頷き、
ただ、アシナが再び目を閉じるのを見届けた。
――
夜が、さらに深まる。
焚き火が、小さく爆ぜた。
炎は低い。だが、確かにそこにあり続けている。
火の揺らぎに照らされて、
三人の影が、ゆっくりと地面に伸び縮みしていた。
「……どう思う?」
薪を動かしながら、ジローが言う。
ナユカは、炎から目を離さないまま答えた。
「わからない。
けど……普通じゃなかった」
少し間を置いて、続ける。
「覚醒、っていうのかな、……正直わからない」
「あの機械もさ……」
ジローは、低く息を吐いた。
「遺跡を守るためだと言っても
あんな攻撃性、必要あるか?」
「……ピオラとも、関係してるのかもな」
焚き火が、ぱち、と音を立てた。
その一瞬の明滅が、二人の沈黙を区切る。
「本当に……何なんだろうな」
ジローの声は、ほとんど独り言だった。
ナユカは、答えなかった。
答えられなかった、のかもしれない。
自分が何を見て、
何を守れて、何を守れなかったのか――
まだ、整理がついていなかった。
――
「……二人とも」
不意に、背後から声がした。
振り返ると、アシナが立っていた。
顔色はまだ万全とは言えない。
けれど、その瞳には、確かな焦点が戻っている。
焚き火の熱に、無意識に手をかざす。
その仕草が、昼間よりもずっと人間らしく見えた。
「聞いてくれる?」
炎が揺れ、彼女の瞳に映り込む。
「……私の知ってること。
一旦、全部話すわ」
ナユカとジローは、視線を交わし、
そして、何も言わずに頷いた。
焚き火は、静かに燃え続けている。
――アシナの胸の奥に沈められていたものが、
ようやく、言葉になる夜だった。




