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第19話 「覚醒」

 ナユカの背で、巨大な影が動いた。


 振り返った瞬間、身体が強張る。

 思考が止まり、呼吸の仕方を忘れる。


 ガーディアンの腕が、ゆっくりと――

 いや、実際には一瞬で――振り上がった。


 避けられない。


 そう理解した、その瞬間だった。


 アシナの足元で、何かがはじけた。


 轟音ではない。

 閃光でもない。


 ただ――

 空気の向きが、一瞬だけ裏返った。


 説明できない感覚。


 次の瞬間、ガーディアンの巨体が、横へ吹き飛んだ。


 岩壁が砕け、粉塵が舞い上がる。

 衝撃音が遅れて耳に届き、洞窟全体が低く唸った。


 ナユカは、自分が声を上げたのかどうかも分からなかった。


 視界の端で何かが動いた気がしたが、

 それが崩れ落ちるガーディアンなのか、

 それとも自分の錯覚なのか、判断できない。


 ――ただ。


 着地したガーディアンは、

 もはや「機能している」とは言えなかった。


 装甲はひしゃげ、片腕は逆方向にねじれ、

 レンズは砕け散り、内部の基盤がむき出しになって火花を散らしている。


 立ち上がるそぶりすらない。


 壊れた巨大な玩具のようだった。


 アシナは、腕を突き出した姿勢のまま立っていた。


 表情はなく、

 目は焦点を失っている。


 そして――

 糸が切れたように、前へ崩れた。


「アシナ!!」


 ナユカは駆け寄り、倒れゆく身体を受け止める。


 思ったより、重かった。


 いや――

 正確には、力がまるで入っていなかった。


 支えようとした腕が、するりと抜ける。

 人の身体が、こんなふうに崩れるのを、ナユカは初めて見た。


――


 呼吸はある。

 胸は、かすかに上下している。


 だが、反応はない。

 完全に意識を失っていた。


「アシナ……おい、アシナ……!」


 呼びかける声が、震える。


 ジローも青ざめた顔で周囲を見回していた。


 一歩、踏み出しかけて――止まる。


 何をすればいいのか、分からなかった。


「……なんだったんだ、今の……」


 絞り出すような声。


「わからない……でも、とにかく……」


 ナユカはそれ以上、言葉を探すのをやめた。


 ただ、アシナの手を強く握る。


 まだ、温かい。


――


「ナユカ、戻ろう」


 ジローの声はかすれていた。

 本当に怖かったのだと、はっきり分かる。


「アシナを……休ませないと」


「……うん。帰ろう」


 ナユカは慎重に、アシナを背負った。


 身体を預けきった重みが、背中にのしかかる。

 一歩踏み出すたびに、その存在を強く意識させられた。


 ピオラは、その様子を静かに見つめていたが、

 ふたりに気づく余裕はなかった。


 余裕など、どこにもなかった。


 帰り道、誰も口を開かなかった。


 足音だけが、やけに大きく響く。


 ナユカは歩きながら、

 背中の温もりが失われていないことだけを、

 何度も確かめるように意識していた。


 今は――

 帰るしかない。

 

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