第17話 「視界の死角へ」
ガーディアンは入口の前から動こうとしない。
巨大な体をわずかも動かさず、ただ無機質に、洞窟の薄闇へと視線だけを向けている。
あれを倒さない限り、外には出られない。
立ち止まっても、考えても、恐怖は消えない。
けれど、進まない限り何も変わらなかった。
「……行く」
ナユカが小さく呟いた。
自分に言い聞かせるように。
《光位偏移迷彩》がナユカの姿を覆う。
輪郭が、遺跡の壁に溶け込むようにぼやけた。
「ナユカ、気をつけて……」
アシナの声は震えている。
ジローは何も言えず、ただ拳を握りしめていた。
ピオラだけが、無言でナユカの動きを追っている。
レンズのわずかな揺れが、不安なのか、期待なのか――
それとも単なる観測なのか、誰にも判別できなかった。
⸻
遺跡の温度は、外よりも低い。
ナユカは自分の鼓動が、やけに大きく響いているように感じていた。
(近づきすぎるな……視界の中心に入ったら終わる)
ジローが教えてくれた“視野の死角”。
そこに自分の命を預けるのは、正直、怖い。
けれど、誰かがやらなければならない。
一歩。
二歩。
ガーディアンは反応しない。
光の揺らぎに気づいていないのか、
それとも近距離の微細な光量差は拾えないのか。
ナユカの喉がひりついた。
《光位偏移迷彩》の範囲から、
足が半歩、はみ出してしまう。
(しまった!)
ガーディアンのレンズが、かすかに動く。
(……頼む、気づくな……)
足が止まりそうになる。
膝が震え、息がうまく吸えない。
(でも……引いたら終わりだ)
ナユカは右手のフォージペンダントを、
ほんの少しだけ握り直した。
⸻
あと数歩で、首の継ぎ目――
ジローが示した“確実な弱点”に届く。
その瞬間、ガーディアンのレンズが光った。
ナユカの全身の血が、一瞬で冷える。
(……見つかった!?)
その場に倒れ込みそうになるのを、必死にこらえた。
だが――ガーディアンは動かない。
光はただ、内部機能が一時的に変動しただけのようだった。
ほんの数秒が、永遠のように長い。
(あと……一歩)
《光位偏移迷彩》越しに、
ガーディアンの姿が揺れる。
刺し込むなら、今しかない。
⸻
「――ッ!」
迷いを振り切るように、
ナユカは一気に踏み込み、
光刃を、継ぎ目へ深く突き立てた。
金属が裂ける嫌な音。
ガーディアンの体が震え、内部で火花が散る。
(動いた! ナユカ、戻れ!!)
ジローは心の中で叫んだ。
ガーディアンの腕が乱暴に振り上がる。
ナユカは転がるように飛び退き、
体勢を崩したまま通路の脇へと転がり込む。
巨大な腕が背後の壁を粉砕した。
石が飛び散り、空気が震える。
(……終わった……?)
ガーディアンが揺れた。
立ち上がろうとする。
――まだ動く。
「ナユカ!!」
アシナの叫びが洞窟に響いた。
ナユカは歯を食いしばり、立ち上がる。
――まだ終わっていない。




