第16話 「遺跡の守護者〈ガーディアン〉」
機械の動く音が聞こえた。
次の瞬間、部屋の奥――
床が割れるような低音とともに、巨大な機械が競り上がってくる。
箱型に近い胴体から、過剰に太い腕が前へ突き出ていた。
節の目立つ金属の指は、人の手を真似ただけの形で、
掴むためではなく「押し潰す」ために作られている。
脚部は不釣り合いに短く、
重心の低い体全体が、通路を塞ぐように立ち上がった。
遺跡の守護者〈ガーディアン〉。
――逃げろ、なんて言う暇はなかった。
三人は反射のように走り出していた。
背後でガーディアンの咆哮が跳ね、
金属の脚が岩床を砕く音が迫る。
息が喉を焼き、視界が揺れる。
必死に走り、角を曲がった瞬間――
ガーディアンの姿が視界から消えた。
ピタリ、と足音も止まる。
「……っ、は……はぁ……」
アシナが膝に手をつき、荒く息を吐いた。
「どうやら……視界に入らないと追ってこないみたいだ」
ジローが、同じく息を整えながら言う。
ガーディアンは遠くに気配だけを残し、動かない。
だが――出口側に回り込んでいるのが、嫌でも分かった。
「……どうするの?」
アシナの声が、わずかに震える。
正面から戦うのは不可能。
だが、倒さなければ外へは出られない。
ナユカは、喉の奥で息を飲み込んだ。
(……ピオラの、あの能力……使えないかな)
《光位偏移迷彩》
道中で何度か試して、分かっている。
完全に姿が消えるわけじゃない。
近距離で見られれば、気づかれる可能性は高い。
それでも――
ガーディアンの視界の“癖”を突けるなら。
「……ジロー。弱点って、あれで合ってる?」
ナユカは指で、
ガーディアンの首の付け根あたりを示した。
硬い装甲の継ぎ目。
構造上、どうしても可動域を確保しなければならない一点。
ジローは、一瞬だけ視線を泳がせた。
「……理屈の上では、そこだと思う」
喉が鳴る。
「いや……“思う”じゃない。
構造的には、ほぼ確実にあそこが一番脆い。
……絶対と言っていい」
だが、その先が続かない。
ジローは唇を噛み、視線を落とした。
(……もし、違っていたら)
その想像が、口を閉ざさせた。
アシナも察したように息を呑む。
遺跡の空気が、重く沈む。
その沈黙を断ち切るように、
「大丈夫」
ナユカが言った。
静かだが、迷いのない声だった。
「ジローがそう言うなら、間違いない」
ジローが、ゆっくりと顔を上げる。
「……もっと、自信持てよ」
一瞬、驚いたような顔をして、
それから、わずかに肩の力が抜けた。
ナユカは深く息を吸い、そして吐き出す。
覚悟を、胸の奥へ沈めるように。
心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
(……行く)
逃げ場はない。
でも、信じるものはある。
「ピオラ、頼む」
ナユカは
《光位偏移迷彩》を起動させた。
視界の端が、わずかに歪む。
自分の輪郭が、現実から半歩ずれる感覚。
ガーディアンの低い駆動音が、再び響き始めていた。
(やるしかない)
ナユカは、音を殺して一歩踏み出した。




