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第14話 「隠された門」

 湖を出てからさらに歩き続け、木々が徐々に細くなり始めたころだった。


 森の奥に、不自然なほど平坦な“何もない空間”が広がっていた。

 倒木も、岩も、草むらすらない。

 ただ、そこだけぽっかりと削り取られたように、地面がむき出しになっている。


「……なんか、変じゃない?」


 アシナが首をかしげる。


「うん。自然の削れ方じゃないな」


 ジローは地面にしゃがみ込み、土の感触を確かめる。

 だが、手応えらしいものはない。


 ナユカは、その様子を眺めながら、胸の奥に微かなざわつきを覚えていた。


(……変だ)


 理由は分からない。

 昨日から続いている、言葉にならない感覚。


 そのとき――

 ピオラが、ふわりと浮き上がった。


 普段より、わずかに高く。

 人の視線より上へ。


「ピオラ?」


 呼びかけても、返事はない。


 ただ、ピオラの中央に淡い光が集まり、ゆっくりと円を描き始める。


 次の瞬間――


 視界が、ざわりと揺れた。


 音ではない。

 空気でもない。

 “そこに何もない”という前提だけが、ずれていく。


 砂が揺らぎ、輪郭が滲み、

 まるで覆われていた薄布が焼け落ちるように、地面の一部が透けていった。


「……!」


 アシナが息を詰める。

 ジローも、言葉を失って立ち尽くした。


 ナユカは、胸の奥が一気に熱くなるのを感じた。


 そして――

 光が完全に消えたあと。


 そこには、確かに存在していた。


 黒い石造りの門。

 今まで“見えなかった”遺跡の入り口。


「……隠れてたんだな」


 ジローが、震えた声で呟く。


「ピオラが……開けたの?」


 アシナが、ゆっくりと振り返る。


 ナユカは答えず、門を見つめ続けた。


(……やっぱり)


 確信ではない。

 自信でもない。


 ただ、胸の奥に溜まっていた予感が、

 静かに形を持った気がした。


(何かが起きると思ってた……

 気のせいじゃ、なかったんだ)


 ナユカは、わずかに息を吐く。


「……行こう」


 声は震えていたが、迷いはなかった。


 アシナも、ジローも、黙ってうなずく。


 ピオラが門の前に降り、左右に淡い光を走らせる。

 門は、石とは思えないほど滑らかに開いていった。


 三人は、初めての遺跡へと足を踏み入れた。


 その瞬間、空気が変わった。


 冷たい――わけではない。

 だが、森の湿り気とは明らかに違う。


 乾いているのに、どこか重い。


 ナユカは、思わず一歩だけ歩調を落とした。

 足音が、予想よりも低く響いたからだ。


 石の床は平坦で、削り跡も少ない。

 長い時間を経ているはずなのに、荒れた感じがしない。


「……音、違うね……」


 ジローが小さく呟く。


 声が、ほんのわずかに反響した。

 森の中では起きなかったことだ。


 光源はないはずなのに、完全な暗闇ではなかった。

 壁や床に刻まれた細い線が、淡く光を返している。


 ピオラが、三人の少し前を静かに進む。

 確かに「導かれている」感じだけがあった。


 ナユカは、無意識に喉を鳴らす。


 風はない。

 生き物の気配も、まったく感じられない。


(……静かすぎる)


 三人の足音だけが、遺跡の内部に響く。


 ジローが、背負っていた荷を直す。

 その動作すら、少し慎重になっている。


「ねぇ……」


 一拍置いて、


「これ、宝とか出てくるタイプの遺跡じゃないよね……」


 ジローは軽い声で言った。


 誰も、すぐには答えなかった。


 代わりに――

 ピオラのレンズが、ほんの一瞬だけ強く光った。


 ナユカの胸が、わずかに締まる。


 根拠はない。


 それでも、はっきりと思った。


(何かが起こる……)


 遺跡の奥は、静かに口を開けたまま、

 三人を待っていた。

 

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