第13話 「道なき道をゆく」
朝の光が白く森を照らしはじめたころ、三人は静かにテントポッドを畳んだ。
昨夜のことを知っているのは、ピオラだけだ。
アシナは少し眠そうな様子を見せるだけで、特に異変はなかった。
「今日は、距離を稼ごう」
ナユカの声に、アシナとジローが小さく頷く。
こうして三人と一機は、再び道なき森へと足を踏み入れた。
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崖を越え、湿った森の斜面を下る。
粘つく根が足に絡み、遠くでは奇妙な鳥の声が響いていた。
そのとき、木々の間を低い唸り声が走る。
「……っ」
次の瞬間、茂みから黒い影が弾丸のように飛び出した。
四足、甲殻に覆われた原生獣――ウロバイト。
動きは速く、迷いがない。
ナユカの背筋が凍りついた、その瞬間。
「下がって!」
ジローの声と同時に、小型エアガンが火を噴く。
光弾が獣の肩を焼き、黒い体が一瞬だけ白く光った。
だが、倒れない。
ウロバイトは痛覚が鈍いのか、狙いを変えずに突進してくる。
「アシナ、右へ回って!」
「う、うん!」
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ナユカは息を整え、フォージペンダントを強く握った。
拳の上に、淡い光の刃が形成される。
(……やるしかない)
ウロバイトが跳躍する。
体勢を崩しながら、アシナが横へ飛ぶ。
地面に爪が深く刺さり、土が跳ね上がった。
「くっ……!」
ナユカは横なぎに獣の脚を狙う。
刃が装甲の隙間をかすめた。
「まだ弱ってない!」
「わかってる!」
獣が、再びナユカへ飛びかかろうとした瞬間――
ピオラのレンズが、一瞬だけ強く光った。
その光に反応したように、獣の動きが止まる。
ほんの一拍。だが、十分だった。
ジローの光弾が獣の側部を貫き、
ウロバイトはついに地面へ崩れ落ちた。
森の中に、荒い息だけが残る。
「ナユカ、大丈夫?」
アシナが駆け寄る。
「うん……ちょっと怖かったけど……平気」
ピオラがナユカの前で静かに浮かび、レンズがわずかに揺れた。
まるで心配しているように――ナユカには、そう感じられた。
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短い休憩のあと、三人は再び歩き始める。
ジローが端末を展開すると、空間に赤い警告線が走った。
「この先、磁気嵐が来る。回り込もう」
遠くで青白い稲光が走る。
空気が焼けたような匂いが漂い、地面がかすかに振動した。
ピオラのライトが、不規則に点滅する。
「急ごう!」
嵐を避けるように迂回し、やがて流れの速い川へ出る。
ジローがキャリーコードを展開する。
細い束だったそれが一瞬で張りつめ、木々に固定して即席の架橋を作った。
「順番に渡って!」
ナユカが渡りきるころには、細かな雨が降り始めていた。
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光を放つ植物が群生する斜面を越えた先に、
ようやく開けた湖畔が姿を現した。
白い霧が水面を這い、遠くで風が波紋を作っている。
「……きれい」
「あとちょっとで、目標地点だね」
疲労が押し寄せる一方で、静かな達成感が胸を満たす。
ピオラは湖の方を向き、微かにレンズを光らせた。
まるで、この先に“何か”があると告げるかのように。




