第11話 「夜営の支度」
日が落ち始めると、森の影は長く伸び、湿った空気が足元にまとわりつくようになった。
三人は少し開けた場所を見つけ、そこで野営をすることに決めた。
「ここなら、原生生物も近寄らなさそうだね」
ナユカが周囲を見回しながら言う。
「風も弱いし、地面も平ら。悪くないわね」
アシナがバッグを下ろし、肩を軽く回す。
ジローがピオラを軽く叩くと、ピオラの下部がふわりと青白く光り、周囲をなぞるように地面を見て回った。
安全圏を示す輪郭が浮かび、三人はそれに従って荷物を置き始める。
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「さて……泊まる場所つくらないとな」
ナユカが、掌に乗るほどの小さな金属球――コンパクトテントポッドを取り出した。
「それ、ほんと便利だよね」
アシナが覗き込む。
「行くよ。――展開」
スイッチを押すと、金属球は音もなく形を変え、
薄い光をまとったドーム型のテントへと広がった。
中に入った瞬間、森の湿気が嘘のように消える。
空気はほどよく乾いていて、外との温度差がはっきり分かった。
足元には自然と柔らかさが生まれ、身体の力が抜けていく。
「……これ、助かるわね」
アシナが小さく息をつく。
「古いやつだけどね。まだまだ使える」
ナユカは軽く肩をすくめた。
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ジローは近くの岩肌に溜まった水を見つけ、水筒に汲んで戻ってきた。
「ちょっと濁ってるけど……」
ナユカは細長いフィルターを取り出し、黙って水筒に取り付ける。
しばらくすると、水の色がゆっくりと澄んでいった。
「……すご」
アシナが思わず声を漏らす。
「飲めるよ」
恐る恐る口をつけたアシナは、目を瞬かせた。
「……え、普通においしい」
「だろ」
ジローは短く笑った。
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「よし、最後はご飯だな」
透明なパックを加熱ユニットに差し込むと、
中でかすかな振動が起こり、やがて湯気が立ちのぼる。
封を開けた瞬間、温かい匂いが広がった。
肉と野菜、穀物。
長い一日のあとに、身体が自然と求める匂いだった。
「……今日一日で、一番うれしいかも」
アシナが、力の抜けた声で言う。
ナユカもスプーンを運び、静かに息をついた。
「……悪くないな」
ピオラは少し離れた場所で浮かび、三人の様子を見ている。
まるで、その時間を邪魔しないように。
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夜が深まり、森の奥から遠く原生生物の鳴き声が響いてくる。
それでもテントの中は静かで、外の気配は薄れていた。
三人は言葉少なに過ごし、疲れた身体を休めていく。
旅の夜は、まだ続く。
だがこのひとときが、確かに三人を落ち着かせていた。




