第40話 「ラナス脱出」
白光をまとって割り込んできたラネッサが、室内に踏み込んだ瞬間――。
短い息遣いが、二度、三度。
それだけで、敵はすべて床に伏していた。
ラネッサはマンダロットを収束させ、周囲を一瞥してから振り返る。
「……大丈夫、ロウガン?」
「助かった、ラネッサ」
ロウガンはわずかに肩で息をしながらも、苦笑を浮かべた。
ラネッサはすぐにナユカのもとへ歩み寄る。
部屋の隅でへたり込んでいたナユカは、まだ呼吸が早かった。
「ナユカ。立てる?」
差し出された手を、ナユカは一瞬ためらい、それから震える指で掴んだ。
「……う、うん……」
触れた掌の温度が、かすかに現実を取り戻させる。
ラネッサは腕のリングを操作する。
「カネス、こちらラネッサ。
ナユカとロウガン、合流したわ」
即座に返答が返る。
『了解。こっちも動く』
通信が途切れる。
ロウガンは壁に手をつきながら、低く言った。
「……アルヴィナ、だな」
疑問ではなかった。確信だった。
ラネッサは倒れた工作員たちに一度だけ視線を走らせる。
「ええ。間違いない。ブラン・アルヴィナよ」
ナユカは言葉の意味を完全には理解できないまま、
ただ二人の緊迫した表情を見ていた。
「……どうする?」
ロウガンの問いに、ラネッサは迷いなく答えた。
「ラナスを離れる。
――もう、この星にはいられない」
「だな。ミリアが準備してる」
「急いで合流するわ」
ラネッサはナユカの肩に手を置き、軽く促す。
三人は、倒れた影を残したまま建物を後にした。
⸻
ルーチェフォード郊外。
朽ちた倉庫の奥に、人目を避けるように一隻の小型船が眠っていた。
艦内では、ミリアが操作パネルを開き、手早く最終チェックを進めている。
その隣で、カネスが工具を片付けながら端末を操作していた。
「ミリア、状況は?」
「問題なし。エンジン生きてる。いつでも出られるわ」
そこへ、ラネッサたちが到着する。
さらに数秒遅れて、ガルドが駆け込んできた。
片腕から血が滲んでいる。
ミリアが思わず声を上げる。
「ガルド……大丈夫?」
「かすり傷だ」
そう言い切るが、呼吸はやや荒い。
ラネッサはナユカに向き直った。
「ナユカ。状況が切迫してる。
今は詳しく説明できない」
一拍置いて、続ける。
「落ち着いたら全部話す。
だから今は……ついてきて」
ナユカは、何が起きているのか分からないまま、ただ頷いた。
「……わかった」
ミリアが肩を回し、少しだけ明るい声を作る。
「それにしても、備えておくものね。
定期メンテしてて正解だったわ。この子、すぐ動ける」
ラネッサが鋭い視線を向ける。
「ミリア。気を抜かないで」
「……ごめん」
ほんの一瞬だけ、空気が緩む。
だが、それが最後の余裕だった。
カネスがパネルを閉じる。
「全員、乗れ。すぐ出る」
船体が、低く震え始める。
それは静かに、しかし確実に――
この星での生活が、終わった合図だった。




