第38話 「知らせ」
冬期祭の熱気がすっかり消えた、ラナスの夕暮れ。
空気は冷たいが、街の気配はどこか落ち着かない。
ラネッサは先ほど制圧した襲撃者を拘束し、路地を離れながら、
腕輪型情報端末〈リンクレット〉に視線を落とした。
──数秒前から、緊急通知が点滅し続けている。
通話に応じると、空間にカネスの映像が映し出された。
「……ラネッサ、無事か!」
声には、はっきりとした緊張が滲んでいる。
「ええ。そっちは?」
返答を終える前に、別の光が割り込んだ。
ミリアの顔が、焦りを隠せないまま映る。
「カネス! ラネッサ! よかった……無事ね!」
一瞬、安堵したように肩を落とすミリア。
ラネッサはすぐに問い返した。
「ガルドとロウガンは?」
短い沈黙。
そのあと、カネスが低い声で答えた。
「……まだ連絡がつかない」
「……ナユカもだ」
ラネッサの表情から、血の気が引いた。
思考が、一段深いところへ沈む。
――最悪の想定が、否応なく浮かぶ。
「……ナユカ」
「ラネッサ」
カネスの声が、さらに沈んだ。
「……ああ、分かってる。
私たち三人が、同時に狙われた。間違いない」
ミリアが息を呑む。
「アルヴィナ……よね?」
「ええ。ほぼ確実よ」
ラネッサは歩みを止め、わずかに空を仰いだ。
(──すぐ、動かなきゃ)
「カネス。ガルドとロウガンの所在を確認して。
ミリアは準備を整えて。
私は……ナユカのところへ行く」
二人は力強く頷き、光柱は静かに消えた。
ラネッサは深く息を吸い、一気に駆け出した。
⸻
その頃、ナユカは自室でピオラのメンテナンス――
と言っても、表面の埃を軽く拭き取る程度のことをしていた。
ピオラは低く「ぴっ」と鳴き、ゆっくり上下に揺れている。
「どうした? 眠いのか?」
冗談めかして声をかけると、ピオラの光がちかり、と強く瞬いた。
(……ん?)
その瞬間だった。
玄関のほうで、かすかな“きしみ”音。
背筋が、ぞわりと逆立つ。
(……誰か、いる?)
ノックはない。
だが、この静けさそのものが不自然だった。
ピオラが、警告するように激しく明滅する。
「ピオラ……?」
次の瞬間。
ドンッ!!
扉のロックが、外側から強引に弾け飛んだ。
「……っ!」
黒い影が、音もなく複数流れ込んでくる。
その直後――
「……ナユカッ!!」
別方向から、怒号と衝突音。
背後――窓の割れる音と同時に、ロウガンが飛び込んできた。
その瞬間、
彼の周囲で光が“カチリ”と噛み合う。
空気が、重く沈んだ。
次の刹那――
前方の空間が、押し潰された。
目で追える動きではなかった。
ロウガンが踏み込んだのか、
それとも“時間そのものが前へ滑った”のか。
黒い影の一体が、弾丸のように壁へ叩きつけられる。
粗暴さはない。
重さと正確さだけを極限まで研ぎ澄ませた、一点突破。
「逃げるぞ!! ナユカ!!」
「ロウガン! なにが──」
「後だ!! 早く!!」
声が、明らかに切迫していた。
ナユカは息を呑む。
(……ロウガンが、ここに?
じゃあ……これは──)
敵の一人が、コートの内側から武器を引き抜く。
ロウガンは即座に前へ出て、壁のようにナユカを庇った。
「走れ!! ナユカ!!」
その叫びが、部屋に鋭く響いた。
⸻
その頃、ラネッサは角を曲がった先で、その騒音を耳にした。
表情が、一瞬だけ険しくなる。
「……間に合って……!」
彼女は、さらに速度を上げて走り出した。




