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第1話 「ナユカの朝」

かつて、人は世界を一つだと信じていた。


文明が行き着くべき場所を通り過ぎた時、

人は自分達を救う“何か”を探し求めた。


――結〈ノット〉。


それは、偶然の発見。


異なる宇宙。

異なる法則。


人はそこに手を伸ばし、

世界と世界を“結んだ”。


その瞬間、

世界は静かにほどけた。


だから彼らは探している。


次の結び目を。


それが救いなのか、

それとも――


再び、世界をほどくための刃なのかを、

誰も知らない。



朝の空気は、ひどく澄んでいた。

太陽が山の向こうで昇る前、夜の名残がまだ空気に残っている。

町をとりまく森がわずかにざわめき、小さな鳥の声が家々の屋根に落ちてゆく。


ここ――ラナスは、銀河の中心からは少し離れた小さな星だ。

かつては高度な文明が栄え、訪れる人も多かったらしい。

だが今はその名残はなく、銀河の中でも少し進んでいるぐらいで、栄光の面影はない。


自然は豊かで、空気も水も綺麗だ。


けれど若者にとっては、

夢を抱くには少しだけ退屈な場所でもあった。


そんな環境が、逆にナユカにはちょうどよかった。


――この星を出て、自分の船で、

行き先を誰にも決められずに旅をする。


その夢が、退屈な毎日に芯を与えてくれる。

だからこそ今日も、早く家を出た。


装備を整えて歩き出すと、

いつもの細い道は薄い朝靄に包まれ、

足跡をつけるたびに静かに揺れた。


町の中心にある管制局〈サブリック〉の建物は、少し古い。

そのせいか、ひどく親しみやすい見た目をしている。

壁はところどころ剥げ、窓も歪んでいるが、

毎朝ここに来ると不思議と落ち着いた。


「おはよう、ナユカ」


受付の女性が、カウンター越しに書類をまとめながら声をかける。

気が強そうな見た目に反して、仕事は丁寧で、よく気が利く。


「おはよう。今日の仕事、何か残ってる?」


「うん、ナユカ向けにいくつか取っておいたよ。ほら」


ナユカの腕のデバイスに、依頼のデータが送信される。


・農家の機械の運搬

・集会所の荷物の回収

・古井戸の点検補助


など、地味な仕事が並んでいた。


「全部やるよ」


「ほんと助かるよ。あんまり無理しないように」


受付の女性は軽く手を振った。

心配してくれているのが、よく分かる。


多くの人は、光柱型情報端末〈コルネット〉を使って仕事を探す。


それでもナユカは、毎朝ここに顔を出していた。

そうしていると、少しだけ条件のいい仕事が回ってくる。


事実、毎日顔を出すナユカには、

少しだけ割のいい仕事が回されている。


ナユカは午前中いっぱいを使って、

依頼を一つずつ丁寧にこなした。

畑の奥で農具を運び、

古井戸で老人に礼を言われ、

また荷車を押して次の場所へ向かう。


汗はかいたが、悪くない一日だった。

夢に、一歩だけ近づいた気がする。


その日の午後、

家に戻って靴を脱ぎかけたところで――

玄関の隅に置いた“ガラクタ”が目に入った。


「あ……昨日のやつ」


ジャンク屋で買った、あの円盤。


直径三十センチほどの、

妙な模様が刻まれた金属の物体。

用途不明なのに、どうしても気になって買ってしまった。


いや、ガラクタと呼ぶには――

なにか、胸の奥がざわつくような感覚があった。


「……ジローに見てもらうか」


町外れの工房にいる幼なじみ。

真面目で、ちょっとだけ堅物。

機械いじりが得意な奴だ。


円盤は重くないはずなのに、

袋を持つ手がじんわり熱く感じた。

気のせいだと思ったが、それでも妙に気になる。


玄関を出ると、風がふわりと吹き、道端の草が揺れた。


その何気ない一歩が、

これから訪れる大きな冒険の“最初の一歩”だったことを――

ナユカ自身は、まだ知らない。

 

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