1章と2章
プロローグ
これは遠い遠いむかしのお話。
あぁそこ、しっかりお話を聞くように!
これは——先生と勇者が戦った時のお話だよ。
そこの君、そう、今この物語を読んでいる君もだ。
大丈夫。これは勇気ある者たちが紡いだ、心温まるお話だからね。
人生において大切なことが、どこかに隠れているかもしれないよ。
それじゃあ……この素晴らしい物語の、開演といこうか。
1章 勇者
市場は今日も騒がしい。
時計台を中心に、人と声と匂いが渦を巻く。
この街では行方不明者が続いている。
噂に出てくる“サーカス団”を追って、僕たちはここへ来た。
「勇者様、本当にサーカス団なんて……。テントなんてひとつも見つかりませんわ」
エリル。
聖女にして、騒がしさでは市場にも負けない。
「うるさいぞ聖女。勇者様は情報を集めてるんです。何も知らないあなたは黙っててください。」
スウ。
魔法と知識は一流、判断力は三流。
脳筋魔法使いとは彼のための言葉だ。
「まぁまぁ落ち着きなって……焦っても仕方ないでしょ?」
僕――ユウは、そう言って彼らをなだめた。
だがこの時ばかりは、僕も何かがおかしいと感じ始めていた。
「……あれ?もしかしてあなたたち……勇者サマ?」
その声は空気を軽く弾いた。
振り返ると、爽やかな柑橘の香りを纏った太陽を体現したかのような眩しいくらいの笑顔の少女が立っていた。
2章 少女との出会い
「君は……誰だ?」
「えへへ、やっぱり勇者サマだ!あ、ごめんね。初対面なのにテンションが上がっちゃって!」
手をぱたぱた振りながら、少女は言う。
「自己紹介をしたいんだけど……名前を教えるのって恥ずかしいでしょ?だから君が考えてよ。初対面記念に!」
困った。
名前は、僕にとって軽いものではない。
「……すまない。名前は人生の軸だ。簡単にはつけられない」
「軸!いい言葉だね!でもさ、これは遊びだよ?気楽に、ぽんってつけてみてよ」
少女は悪気なく笑っていた。
無邪気で、光のように明るくて、そしてどこか……深さが見えない。
「そうだな……君は明るい。人に光を分けられる子だ。だから――ヒカリ。どうだ?」
少女の瞳が、確かに揺れた。
「ヒカリ……光……ハハ、アハハ!素敵だ!最高だ!ねぇ勇者サマ、僕のことはこれからヒカリって呼んで!」
「名前のお礼にこの市場を案内してあげる!ここは僕の”故郷”だからね!」
彼女はそのまま僕たちを市場案内へ連れて行った。
「そこの果物屋はね、町で一番甘い果物があるんだ!時間があったら食べてみて!」
「勇者様、フルーツ……」
「はいはい、買うよ」
「そっちの魚屋は声がでかいから覚悟してね」
「らっしゃあああああい!!」
「耳が……!勇者様……!」
歩き、笑い、食べて。
夕日が街を金色に染める頃、ヒカリはふと時計台を見上げた。
「……あ、まずい。時間だ。ごめん、僕そろそろ行かなきゃ!またね!」
振り返りもせず、彼女は人波に紛れて消えた。
「風みたいな子でしたわね」
「勇者様、あの子怪しいですよ。監視したほうが良かったですかね」
「まぁまぁちょびっと不思議だけど、いい子だったし大丈夫だとおもうよ」
その時の僕たちは――まだ何も知らなかった。
まだ途中までなので気が向いたら書きます




