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ノースライム・ノーライフ~ぼくとスライムの日常~  作者: 雲川ぬーぬー


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2/3

スライムと登校する

 次の日の朝。


 水野太郎は、目覚ましより少し早く目を覚ました。


 理由は単純、腹の上で何かがもぞもぞ動いているからだ。


「……おはよう、スライム」


 ぷるん。


 布団の上で、半透明の青い塊が小さく跳ねた。

 どうやら返事のつもりらしい。


 昨日の夜、どうするか少しだけ悩んだ後、太郎はスライムを家に連れて帰った。

 研究室に置いておくのは、さすがに不用心だと思ったからだ。


 なお、彼は一人暮らし。

 家族には寂しがられたが、一人暮らしというものを早く経験したかった。だから、学園には研究に集中する為とテキトーな言い訳をして、家賃も払わせている。


「とりあえず……寝るか」


 スライムは、太郎の言葉を理解したのか触手を伸ばして頬を叩いてきた。

 早く布団から出ろ、学校に行くぞ、と言っているのが丸わかりだ。

 意思疎通が取れている気がするのが、また厄介だった。


 制服に着替え、カバンを持つ。

 スライムはというと、いつの間にか太郎の白衣のポケットに収まっていた。


「……そこ、定位置なの?」


 ぷる。


 肯定だ。


「◯カチュウみたいに、肩に乗る気はない?」


 ぷるぷる。


 否定だ。

 頭の上は不安定で落ちるから怖いらしい。

 ちょっと憧れていただけに残念だ。


 ぼくは白衣を羽織り、靴を履いて玄関を出た。


 白衣は特待生の証として、着用が許可されている。

 おかげで、中身はラフなTシャツにジーパンでも周りはみんな気にしない。

 スライムを隠すのにも都合がいい。


 ◇


 登校。


 いつも通り、誰にも話しかけられず、誰とも話さない。

 太郎にとっては平常運転だ。


 ただ一つ違うのは――


「落ち着けって……」


 ポケットの中で、ぷにっとした感触が主張してくることだった。


 ぼくが小声で呟くと、スライムは名残惜しそうに動きを止めた。


 校門をくぐり、廊下を歩く。

 クラスメイトたちの視線が、一瞬こちらに向く。


「あ、水野だ」

「特待生の?」

「今日も授業出ないんだろ、いいよなー」


 いつも通りの、距離感のある囁き声。

 羨望と無関心が、いい感じに混ざった空気。

 誰にも気を使わなくていい、この空気感は入学した時から気に入っている。


 ――だが。


 ぷるん。


 白衣のポケットが、不自然に揺れた。


「……っ」


 太郎は反射的に腕で押さえる。

 周りを見ると、一人の男子学生と目が合った。

 彼は驚き慌てながら、隣の知り合いの制服を引っ張っている。


「お、おい!」

「どうした?」

「あ、いや……なんか水野の胸が飛び出たような……見た?」

「マジかよ、彼女が居ないからって男の胸膨らますなんて……ちょっとドン引きっすわ」

「いや、違うんだって」


 彼は目を擦って、もう一度僕の方を見ている。

 他にもいろんな視線が集まってきた。


(やばい、バレる……!)


 その瞬間、スライムは自分から動きを止めた。


「見間違い、じゃね?」


 彼の隣人が首を振った。


「いや、でも!」

「ちょっと離れてくれ、おっぱい星人」

「おっぱ!? だから違うんだって!」


 怪訝そうな視線が離れていき、一人の男子生徒が変態ということに落ち着いたみたいだった。


 ぼくは、内心でため息をついた。


(……スライム、おまえ空気読むの上手すぎだろ)


 ◇


 作業のチャイムが鳴った後、ぼくは科学室でスライムと向かい合っていた。


「さて……どうするかな」


 実験台の上にスライムを置く。

 スライムは、昨日と同じようにぷよんと跳ねた。


「まず確認したいのは――」


 ・毒性はあるか

 ・増殖するか

 ・知能レベル

 ・危険性の有無


 研究者として、最低限のチェックは必要だ。


 太郎はゴム手袋を装着し、ピンセットでスライムの端をつまむ。


 ぷに。


「……抵抗、なし」


 スライムは嫌がる様子もなく、むしろ嬉しそうに体を伸ばしてくる。


「ちょ、近い近い」


 顔に向かって跳ねてくるスライムの体当たりを弾き返す。


(……実験、進まねぇ)


 結局、危険性に関する明確な兆候は何も出なかった。


 ・金属を溶かさない

 ・皮膚に触れても異常なし

 ・電気にも反応なし

 ・熱に強い


 総合評価。


「……無害」


 ぷるん!


 スライムは大きく跳ねた。

 褒められたと思っているらしい。


「いや、別に褒めてない」


 ぷる……?


 首をかしげるような形になる。


「……まあ、いいけど」


 太郎は椅子に腰掛け、スライムを膝に乗せた。


 ひんやりとした感触が、心地いい。


「なあ、スライム」


 ぷる。


「楽しいか?」


 スライムは一瞬だけ静止し、それから――

 ぴょん、と太郎の胸に飛び込んできた。


「……そっか」


 胸元でぷるぷる震える感触。


 誰にも期待されず、誰にも干渉されない日々。

 自由だけど、退屈だった毎日。

 意味も目的もない存在が一つ加わっただけで、静かな時間が違って感じる。


「……しばらくは様子見かぁ」


 スライムは、嬉しそうに体を揺らした。

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