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女子に嫌われるのって辛いよね

記念すべき七話目!

僕の考える『ヒロイン』像は不器用が基本です!

 「何話してるんだ?」


 聞き慣れた声に、幸來はビクッと肩を震わせた。顔を上げると、そこに立っていたのは、和誠だった。


 心臓がドクンと大きく鳴る。幸來は、驚きと戸惑いで、顔が固まってしまった。一ヶ月前に助けてもらった恩人。そして、彼女が『ヒロイン』になることを決意した、彼女の物語の『主人公』。


 彼が目の前にいる。それだけで、幸來の頭の中は真っ白になった。


 和誠は、そんな幸來の反応には気づかない


 「あれ?かずっち、今日は薫と一緒じゃないの?」


 「ああ。なんか委員会らしくてな、てか、何か楽しそうに話してたけど、面白い話でもしてるか?」


 和誠の言葉に、澪央はわざとらしく小首を傾げる。


 「えっとねぇ……」


 澪央が答えようとしたその時、幸來の口から、予想外の言葉が飛び出した。


 「和誠くんにだけは言いたくありません!」


 幸來は、とっさにそう叫んでしまった。


 (違う!違うの!そうじゃないの!)


 心の中で叫びながら、幸來は顔が熱くなるのを感じた。


 和誠は、その言葉に一瞬、目を見開いた。そして、すぐにいつもの調子に戻し、からかうように幸來に微笑みかける。


 「なんだよ、文月さん。そんなに秘密にしなくてもいいだろ」


 和誠の言葉を聞き、幸來はますますパニックになった。頭の中では「ごめんなさい!違うんです!」と叫び続けているのに、口からは言葉が出てこない。


 そんな幸來の様子を見て、澪央がそっと助け舟を出した。


 「まあまあ、かずっち。文月さんもまだ緊張してるんだよ」


 澪央の言葉に、幸來は顔がさらに赤くなる。和誠は、澪央の言葉に少しだけ照れたような顔をした。


 「そうか、そりゃそうだ。俺が何かやらかしたら、いつでも言ってくれよ」


 和誠はそう言って笑った。澪央と美咲、恵美は、その幸來の不器用さに、顔を見合わせて微笑んだ。


 和誠は、幸來の隣の席に座った。和誠との距離が近くなったこたで幸來の心臓は、まるでマラソンを終えた直後のように、激しく脈打っていた。


 和誠は、楽しそうに澪央と話している。しかし、同時に、幸來の胸の奥がチクチクと痛む。


 (和誠くん、私なんかよりも、花野井さんの方が話しやすそうだ。当たり前だよね。だって、幼馴染なんだもん)


 「そんで?かずっち、あんたうちの可愛い幸來ちゃんになにをしたのかなぁ?」


 突然、澪央が和誠に顔を近づけて、耳元で囁くように言った。


 幸來は、澪央の言葉に、顔が熱くなるのを感じた。


 「いやっ!別に何もしてねぇって!」


 和誠は、焦ったように声を上げる。


 「怪し〜なぁ」


 澪央は、和誠の焦った様子を見て、さらに面白そうに笑った。


 「この、皆んなの『主人公』である俺が女子を傷つけるなんて真似するわけないだろ⁉︎」


 和誠は、身を乗り出し、澪央を詰めるように言った。


 「かずっち怖ぁ〜い、傷つけられたぁ美咲〜助けてぇ〜」


 澪央は、わざと大げさに和誠から離れ、美咲の腕にしがみついた。


 「マジで、お前覚えとけよ?」


 和誠は、本気で悔しそうな顔をして、澪央を睨みつけた。しかし、その顔は、どこか楽しそうだった。


 和誠と澪央の関係は、まるで兄妹のようだ。じゃれ合っている二人の姿を見ていると、幸來は少しだけ寂しくなった。


 (私も、和誠くんと、あんなふうに話せるようになりたい。でも…)


 幸來は、無意識のうちに、また自分の殻に閉じこもろうとしていた。


 (ううん、ダメ!私は、和誠の『ヒロイン』になるために変わるって決めたんだから!)


 「もっ元宮くん!話しすぎですよ!」


 幸來は、勇気を振り絞って、和誠に話しかけた。


 和誠は、幸來の言葉に、一瞬だけ固まった。


 「え……」

 和誠の目が、幸來をじっと見つめる。幸來は、彼の視線から逃げ出したくなった。


 (どうしよう……また、変なこと言っちゃった……)


 幸來は、顔を赤くして、俯いた。


 「……」


 和誠は、何も言わなかった。ただ、幸來の様子をじっと見つめていた。


 そして、和誠はゆっくりと幸來から視線を外し、澪央たちに目を向けた。


 「ごめん、ちょっと用事思い出したから、先行くわ」


 そう言って、和誠は足早に教室を出ていった。


 和誠の背中を見つめながら、幸來は胸の奥がチクチクと痛むのを感じた。


 (私……また、失敗しちゃった)


 幸來は、自分の言葉足らずなせいで、和誠を怒らせてしまったのだと思った。



 一方、教室を出た和誠は、誰もいない廊下を歩きながら、心の中で嘆いた。


 (俺が何したって言うんだよぉ!教えてくれよ!俺の尊敬する『主人公』たちぃ!!)


 幸來の「和誠くんにだけは言いたくありません!」という言葉。そして、「話しすぎですよ!」という言葉。和誠には、その言葉の意味が全く分からなかった。


 和誠の頭の中は、疑問と不安でいっぱいだった。


 (もしかして、俺は『主人公』になる才能がないのか?……いや、そんなはずはない。はずらないよなぁ?)

 和誠は、心の中で自問自答を繰り返す。


 (そうだ。これはきっと、物語の序盤によくある、他のキャラとのすれ違いだ。そうだ。そうに違いない)


 和誠は、そう自分に言い聞かせながら、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、誰もいない廊下を歩き続けた。

名前変えました!

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