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後天のヒロイン?

記念すべき第四話!!


 「なあ、翔太、今週の『ションプ』読んだか?」


 「ああ、読んだ読んだ。ルヒーの覚醒、やばかったよな。」


 いつも通り学校に登校した、和誠はクラスメートの葉桐 翔太と、他愛もない漫画の話で盛り上がっていた。


 (いやぁ、俺もあのぐらいみんなの心を動かせる『主人公』にならないとなぁ)


 和誠がそんなことを思っていると、急に教室が静かになった。さっきまでガヤガヤと話していた声が、ピタリと止む。和誠と翔太も、その異変に気づき、教室のドアの方へ視線を向けた。


 そこに立っていたのは、和誠が人生で出会ってきたどんな人より圧倒的に可愛い美少女だった。


 彼女の髪は、まるで絹糸のように艶やかで、夕焼けを溶かしたような柔らかなブラウンの光を放ちながら、まっすぐに背中まで伸びている。小ぶりで整った顔には、透き通るような白い肌。その顔立ちを最も際立たせているのは、縁取られた大きな瞳だ。誰もが息をのむような美しさは、物語の挿絵から飛び出してきたかのようで、彼女が身につけている制服は、他の女子生徒と同じ物なのかと疑ってしまうほど着こなされていて、その佇まいからは、清らかでどこかお淑やかな雰囲気が漂っている。


 そんな美少女が、戸惑うクラスメートの視線も気にせず、まっすぐに和誠の席に向かってくる。


和誠は、いかに、『主人公』らしくスマートに対応しようと、頭の中でシミュレーションを始めた。しかし、その作戦は、彼女の一言で完全に崩壊する。


 「おはようございます。元宮くん」


 鈴が鳴るような、透き通った声だった。


その声に、和誠の脳裏に、一つの記憶が蘇る。


いじめっ子たちに囲まれて、震えていた女子生徒。その彼女が、かすれた声で「ご、ごめんなさい……」と謝っていた姿。


美少女の声と、その震える声が、和誠の中で繋がった。


「お、おはよう。文月さん……」


和誠がそう言うと、教室中に再びどよめきが走った。


 「え、文月さんって誰?、あんな可愛い子、クラスにいたっけ?」


 「確かいたような?…けど別人じゃん……」


 「まじかよ、超タイプなんだけど」


クラスメートの囁きが、和誠と幸來の周りで渦巻く。


和誠もまた、幸來の変貌ぶりに驚きを隠さないでいた。


 その時、教室のドアが勢いよく開いた。


 「おい、お前ら!ホームルーム始めるぞー!さっさと席につけ〜!」


「「は〜い」」


担任の女性教師の声が響き、幸來は和誠に小さく会釈をして、自分の席に戻って行った。


授業中も、和誠は時折、幸來の方をチラリと見てしまっていた。


 それから、前半の授業が終わり昼休みに入った。

その間、幸來は朝の和誠との挨拶以来、誰とも話さず孤立してしまっていた。


本当は1時間目の休み時間から話しかけようとしていた。和誠だったが、もしかして自分のせいで一ヶ月も学校を休んでいたかもしれないと思うとなかなかできなかった。


それでも自分の憧れる『主人公』なら見捨てることはしないと考え、和誠は席を立ち、幸來のところへ向かおうとした。


しかし、その一瞬早く、幸來が席を立った。彼女は、少し離れて他の女子と話していた。花野井 澪央のもとに向かっていく。澪央は和誠の小学校からの幼馴染で、面倒見のいさからクラスの人気者だ。


 「花野井さん、私と一緒にお昼を食べていただけませんか?」


その言葉は、和誠の耳にもはっきりと聞こえた。


和誠は、幸來の口から発せられたその言葉を聞いて、静かに席に戻った。


 (そうか……変わったのは、見た目だけじゃないんだな……)




 その日の放課後、学校から帰ってきた幸來は自室のベッドに飛び込んだ。


 「はぁ〜……疲れた〜……」


 慣れないローファーを履いて歩き回った足の疲れと、一日中緊張しっぱなしだった心の疲れが、一期に押し寄せてくる。


 (今日の、私……大丈夫だったかな?)


幸來は、今日の自分の行動を思い返してみる。朝、和誠に「おはようございます」と声をかけた瞬間のこと。震えそうになる声を必死に抑え、強がって笑ったこと。そして、花野井さんに話しかけた時の、心臓が爆発しそうだったこと。


 (うわぁー!恥ずかしすぎ!何、あのキザなセリフ!「一緒に食べていただけませんか?」って、何様だよ私!でも、元宮くん、すぐに私だって気付いてくれたな)


幸來は、今日の自分の言動を思い出し、顔を手で覆った。恥ずかしさで、頬が熱くなる。


 一通りベッドの上でごろごろと転がった後、幸來は一ヶ月前、和誠が言ってくれた言葉を思い出す。


 「前に進んでみようぜ?自分の人生の、自分自身の物語の『主人公』は自分だって言えるその日まで」


 (そうだ、私、頑張るんだから。変わるって決めたんだもん)


幸來は、ベッドから起き上がり、まっすぐと前を見つめる。


 (だけどごめんね、私、元宮くんが言ってくれた様には生きられないや)


幸來の口元から自然と笑みがこぼれる。


 (私は貴方の、元宮くんの『ヒロイン』になるために前に進むよ)


天性:生まれ持った物

後天:自ら身につけた物


主人公 対義語 ヒロイン


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