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文化祭の破壊

情念

作者: 月這山中
掲載日:2025/07/13

 針仕事とは血を流して行うものである。

 それで作られたものには、自然と情念が宿る。


「先輩、卒業おめでとうございます」

 手芸部の三年生、小泉楼香は渡された花束を抱きしめる。

 目じりに涙を浮かべて後輩たちに礼をする。

「ありがとう」

 小泉は花束に小さなテディベアが差し込まれているのを見つけて、それを指先で撫でる。

「私のこと、忘れないでね」

 彼女は言った。

 部室の棚には彼女が作った兎のぬいぐるみが置かれている。



 時は流れて。

 手芸部は部員が二十名になり、皆こぞって新たな作品を作っていた。

「この兎、OGのですよね?」

 新入部員が新作を手に古ぼけたぬいぐるみを指さす。

「もう古いし置き場所もないですし、捨てましょうか」

 現部長の男子生徒が言った。小泉に花束を渡したうちの一人だ。

「いいんですか?」

「連絡先もありませんから仕方ないかと」

 その言葉を受けて、新入部員がぬいぐるみを棚から取る。

「……痛っ」

 新入部員が手を引いた。指先に赤い血の玉が膨らむ。

「針が、残ってたんですかね」

「危ないな」

 現部長は絆創膏を取り出してその指に巻く。

 今度は慎重に、そのぬいぐるみを取る。

 小泉楼香は卒業式の後、早逝していた。

 事実を口にするのを現部長ははばかった。

 学校の裏手。

 新入部員の手で兎のぬいぐるみが焼却炉に入れられた。

 現部長が耳を塞いだ。

「なにか言いましたか?」

「え。なにも」

 新入部員は振り返って答える。

「…………」

 現部長は、今度は耳をそばだてて何かを聴き取ろうとする。

「忘れないでね……」

「なんですか、それ」

 新入部員は現部長の顔を覗き込む。その両目は焼却炉を越えて遠くを見ている。

「……ううん、なんでもないや」

 現部長は頭を振った。




 時は流れて。

「ここ、なんか変じゃないですか?」

 指さしたのは、あの日ぬいぐるみを焼却炉に入れた部員だった。現在の部長だ。

 部室の棚に赤い染みが広がっている。

「血みたいで、気味が悪いですねー」

 新入部員は言った。切れかけた電灯がチカチカと明滅する。

「顧問の先生に言って新しい棚買って貰いましょうか」

「それがいいですよー、ここに私のねこちゃん置きたくないです」

 現部長と新入部員は棚に置かれた作品を手に取って、ひとまず段ボール箱に入れておく。前の部長は焼却炉にぬいぐるみを入れたあの日から、学校を休んでそのまま命を絶ってしまった。

 事実を口にするのを現部長ははばかった。ふと、現部長が顔を上げる。

「どうかしましたー?」

 新入部員が頭をひねる。

「いや、ここ、あの兎のぬいぐるみが置いてあったところだなって」

 現部長が呟いた。

 電灯が消える。





『小泉楼香さん、本当は呪いの本を読むのが趣味の手芸部の小泉楼香さん、体育館に来てください』




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