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5:ギルド始動!

「……と、いう訳で、国民の結婚活動の支援を目的にした組織である。皆には相談者の気持ちに寄り添い、誠意ある態度を示すよう願う!」


 王太子の訓示は本音だから、職員たちも気を引き締めている。


「だが馴染みのないギルドを訪れるのは気後れする! 入会金無料で釣っておいてあとで酷い目に遭うのではないか、などの不安が下々の間で流れているのをなんとかしなければならない! 君たちの斬新な案を待っている! 細かい案件も私は精査する! 期待しているぞ!」


 だんだんと熱が入る姿は、もはや演説だ。


「……あれって、自分は思いつけないからおまえらに丸投げって意味ですよね」


 王太子の横顔を眺める位置の壁際に並んで立つ新婚夫婦。

 王太子の性格が分かってきた気がするテレシアは、こっそりシリウスに耳打ちする。


「ああ、鼓舞しているふうを装っているけどな」

  

 シリウスは頷く。でもあれで部下も感激するのだから、人を使う者として向いているのだろう。

 金髪翠目の美形王子だから華がある上に、身振り手振りの熱弁だ。聞き入ってしまうのも無理はない。あとで「あれ?大した事言ってない」と聞き手に冷静になられるのもご愛嬌である。


 学生時代から彼を胡散臭いと思いつつ結局は納得させられるのだから、王子は魅力的な人物なのだ。テレシアが短時間の数度の対面だけでアンドールの本性に気がついたのに驚く。さすがは探偵社に在籍していただけあると感心した。

 

「だから集客のために仕込みを使う!」


 なんとなくもう王太子の話を聞き流していた二人は、一際大きい彼の声にびっくりした。

 シリウスもテレシアも……“だから”が何に掛かっているか聞き逃した。だがあまり問題はないようだ。職員たちも「仕込み?」とか騒めいている。


「仕込み人たち! 入ってきたまえ!」


 まるで劇場の支配人が役者の紹介をする舞台みたいに、王太子は声を張る。


 十人ずつの若い男女が部屋に入ってきた。


「王宮メイドと騎士たちだ! そろそろ結婚を考えている彼らにギルド会員になってもらい、活動してもらう。つまり『既に会員となって相手を探している者たちがいますよ』と外部に知らせる客寄せ要員である。本気で婚活するから真面目に扱ってくれ。君たちの練習台でもあるから心して取り組むがいい!」


「あー良かった。詐欺じゃないんだ」

 うっかり零したテレシアに「殿下はそんな揉め事は起こさない」と、シリウスは一応上司を擁護した。



 基本的に発起人の王太子は表には出ない。代わりにシリウスが会長として週に二日ギルドに顔を出す事になっている。


「殿下の侍従をしながら大変ではありませんか?」

 テレシアが心配するとシリウスは「むしろ息抜きになる。殿下の無茶振りも躱せて快適だ」と、案外気楽そうで安心した。


 ただ、城にまで車で出勤しろとの命令にはシリウスは抗った。大抵はすぐ王太子に折れるのだが、これにはめちゃめちゃ抵抗した。


「事故で死んだらどうするんですか! 新婚なんですよ、こっちは!」

「お前の財産が転がり込むんだ! 嫁は喜ぶわ!」

「テレシアはそんな女性じゃありません!」

「今のは勢いで言って悪かったと思う! でも契約結婚を盾にするな! おまえがそこまで自動車が嫌いだとは思わんかった!」

「あんな鉄剛の塊が、たかが熱変換で馬車より速く走るだなんて信用できません!」


「……昔と違って事故は減ってるし、帝国の最先端技術だぞ。晒すな馬鹿」


 初期の爆発事故多発はシリウスの不信感の元だ。

「あー、じゃあ週に一度は宣伝のために乗ってきてくれ」

 溜息をついて珍しく王太子が譲歩する。


「城には蒸気機関大好き男子がわんさか居るんだ。見せてやってくれ。帝国も自動車を普及したくてな……販売促進をされている」


 アンドールは苦い顔をした。


「最近、ウチの羽振りが良くなったと思えばこれだ。富裕層の客に売り込めと、帝国の圧力を受けている。まだまだこっちは弱小国だっつーのに」


「なるほど、煩い大臣たちに売ればいいんじゃないですか。何割かは事故に遭ってしばらく大人しくなるかもしれません」


「シリウスくん、涼しい顔で毒吐くのやめて!? 怖いんだけど!」







 王太子の募集でギルド参加を決めた王宮メイドと騎士団員たちは、男女別々に聞き取りをされる。まるで取り調べのようで皆が戸惑っていた。


「シリウス様、この書式はよく出来ていると思うのですが……」

 テレシアはぴらりと一枚の用紙を、彼の目の前で振る。

 

 住所、氏名、年齢、職業、給料、健康状態、出身地、家族構成、資産及び借金の有無、特記事項、相手に望む事項……。それぞれの項目に応じて記入する余白がある。


「これ、ここまで詳細を書く必要があるのでしょうか。踏み込み過ぎとの声があって抵抗があるようです。事情聴取のようだって」


「でも当人たちが、見知らぬ異性からこれらを聞き出すのは不躾じゃないか」


「え? 初対面でここまで相手に提示しちゃうんですか?」


「違う違う。これはギルドの情報。こっちで相互の条件が合いそうなのを紹介するのが合理的だろ」


「はあ……シリウス様、それを職員に伝えるべきでしょう。“はいこれ”と渡されてみんな聞き取っていますが、“これを気になる相手に見せろって渡すんですか?”と不思議がってましたよ」


「情報は大元が把握管理しておくものだ」


 テレシアは「最初に言ってくださいよ」と呆れた。


 この夫は無口ではないけれど、説明が少なすぎる。こちらが聞けば面倒がらずに話してくれるのは助かるのだが。



 仕込み人たちは選別された第一弾である。美醜に(こだわ)らず、まずは外見に清潔感があり不快感を与えないのが大事で、誠実だと周囲の信頼も厚い人物たちだ。集客要員として美形ばかりじゃないのが好感が持てる。


 彼らの希望を聞くと、いきなり二人きりではなく気軽に集団で話してみたいとの事なので、急遽立食パーティが開かれた。

 近くの各レストランから様々な料理が持ち込まれる。素早い対応は商業ギルドとの事前契約の賜物だ。今回は平民限定の参加なので妙に格式張らないのが良かった。


 ギルドの初期出資金の大半はアンドールの資産で行うと明言している。もちろん慈善事業の一面はあるにしても、出費が重なると損失ばかりが大きくなるのではないか。こういった想定外の出費も今後増えるに違いない。



 王太子の懐具合を心配するのもおかしいが、シリウスは計画段階でそれも指摘していた。


「これは私の趣味で自己満足な部分もあるからね」


 アンドールは利益は二の次だとカッコつけていた。


「貧民への炊き出しとかの慈善事業の変形みたいなものかな。でもギルド同士が協力できる事業とかなんかないかとは考えてはいたんだよなー」


「国庫に手をつけないなら、何してもかまいませんよ」


「それでも催事や食事会には平民は格安に、貴族にはそれなりに金を払ってもらうつもりだよ。そしてほら、成婚の暁には結婚式から食事会、さらに初夜のための部屋。元迎賓施設の特色を生かしてさ、思い出に残る特別な式を提供したいと思っている。そこは予算に応じて要相談だ」


「見栄っ張り貴族のために殿下の離宮を提供すればいかがです? 多国籍情緒あふれる趣味全開ですが、王族の別宅だし、珍しいものも多いし、金をふんだくれますよ」


「おまえ、何気に貴族嫌いだよね。自分も貴族のくせに」


「別に。仕事で横槍入れてくる偉そうな無能貴族が腹立たしいだけです」


「それになんとなくだけど……私の趣味宅、貶してない?」


「まさかそんな不敬な。蒸気機関車の模型がエントランスにある意味が分からないとか、不気味な多肉植物園とか、部族の仮面部屋とかを、よくいろんな国から集めたなと感心するくらいですよ」


「やっぱり貶されてる気がする!」




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