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10:軌道に乗ってきました


 冒険者ギルドの参加希望者が多かったらしく、冒険者ギルドの要請で参加人数の上限を二十五名に引き上げた。それに対応して女性も二十五人ほど募集する。思ったより早く女性枠が埋まり、あぶれた女性たちの失意の声が大きく、もっと頻繁に会を開いてほしいとの要望にどう応えるか、これからの運営課題となるだろう。


 双方に何も条件をつけなかったので、離婚経験者や高齢者もちらほら混ざった。今回は開催側も手探りなので許してほしい。



「ほう、なかなか盛況じゃねえか」

「冒険者と言っても様々ですね」


 見合い会場をこっそり覗いているのは、冒険者ギルド会長とシリウスだった。


「まあなあ。野獣討伐専門のヤツから、護衛専門、未開地探索や宝探し専門てのも居る。中には薬師と組んで強力な攻撃薬の開発をしている変わり種もいる」


 シリウスもある程度実情は知っている。未開地探索活動の冒険者の中には、国からの依頼で地図を作っている者もいるのだ。彼らには健脚と知識知能が必要で、世間の“冒険者は脳筋”のイメージからはほど遠い。


「あんまりむさ苦しい奴は、ギルドの女事務員たちの指導が入ってな、今日は小綺麗だぜ。ここまで取り繕わねえといけないのかねえ。俺はかーちゃんが嫁にしろって押しかけてきたから分かんねえ」


「そりゃボスのところは冒険者同士ですから条件が違うでしょう。ほら、女性だっておめかししているし、第一印象は誰しも良くしたいものですよ」


「そうかもなあ。鳥なんかオスの方が綺麗にしてメスに迫るしなあ」


 他愛もない会話をしながらも、シリウスの目はテレシアを追う。職員と分かるように胸に名札を付けているのはいい案だ。間違って見初められる心配がない。


「飯、美味そうだな。あれを千タルフで食えるだけで参加価値がありそうだ」

 ビュッフェ方式で皆、思い思いの行動をしている。


「ええ、酒もありますからね。当然こっちは赤字ですよ」


「王太子殿下の考えは分かんねえなあ。負担は私財からなんだろ?」


「あの方の財産から言えば微々たるものですよ。帝国の不動産会社や、蒸気機関関連のいくつかの会社に初期から投資していますし、結構配当金があるらしいです」


「ははっ、先見の明があるってか。次期国王様は頼もしいねえ」


「そうですね」


 学生時代からアンドールは未来を見ていた。


 国庫を潤すのに“投資”の概念を持ちこんだが子供の戯言と取られ、国王や議会の承認は得られなかった。父には『儲かるなら自分の金でやってみろ』と煽られ、既に自分の事業を抱えていたアンドールは、私財を帝国の“会社”に投資する。結果、結構な資産家になった。彼の私産は国王のそれをゆうに上回る。


 自分の懐を肥やすだけでなく、国庫が危なくなればその私財をつぎこむ覚悟もある。そんなアンドールだから、シリウスを含む側近たちはついているのだ。


「じゃあ俺は帰るな。問題点とかあったら言ってくれ」


「はい、ありがとうございます」


 視察を終えた冒険ギルド会長は納得した様子で、シリウスも一安心だ。


 結婚相談ギルドの運営責任者は、所長ディローニと副所長テレシアである。しかし総合責任者はシリウスで、現場で対応しきれないトラブルには彼が矢面に立つ。



 集団見合いは概ね好評で、何組かは交際に発展した。


「全く接点のない人たちの出会いはどうかと思いましたが、いい雰囲気でしたね」

 イリエが書類を纏めながら感想を述べた。


「筋肉好き女子の積極性はすごかったな。冒険者より捕食者の目だったぜ」

 カルフェルグが少し引くくらいだった。


「そうだな。やっぱり精悍な男が人気だったけど、一番人気は群がられて困惑していたな。彼の交際が成立しないのは意外だった」


 そう言うギナンは身上書をあらためて読んで「ああ、控えめな子がタイプらしい。肉食系は駄目だったか」と呟く。


「じゃあ囲まれるだけじゃなくて、自分から行動しなくちゃね。控えめな子はグイグイきたりしないもの」


「でも自分を売り込む場所なんだから、女だって大人しくしてたら気に入った男を他の女に取られるぞ」


「んー、個々で紹介するのもアリだけど、まだそれだけの会員数はないのよね」

 イリエとカルフェルグの会話を聞いて、テレシアが口を挟む。


「これからですよ」

 広報担当している女性が「各商店や露店の空きスペースにも張り紙していますし、今回の集団見合いも参加者の口コミで話題になるでしょう」と分析する。


「食事内容だけでも広まってくれたらいいです。参加費千タルフであれは破格ですからね!」

 会場設営担当のベンは食事に拘った。美味い料理と酒があれば大抵心象が良いものとの持論である。


「確かに見た目も綺麗で良かったわ」


 ドロシーも頷く。今回は平民向けの会という事で、大衆食堂の手も借りた。普段定食などを提供している大将に依頼すれば、二百枚の小皿を借りたいと言う。

 さっそくギルド経費で購入して貸し出すと、五十皿ずつの四品を出してきたのが意外だった。少量の盛り付けも見栄えが良く、聞けば女将さんが乗り気で楽しく調理をしたそうだ。


 料理も会場もおしゃれだったと参加女性たちが言えば、会員になる女性は増えるだろうし、女性が集まれば男性も呼び込める。


 手応えを感じた結婚相談ギルドは、それからも次々と集団見合いを企画してゆく。回数を熟していくと、年齢を区切るのも必要になってきた。成人とは言え十代の少女と三十代の女性を一緒にすると、どうしても人気は若い子になるからだ。

 

 成人したての十七歳の少女が申し込みに来た時は、そんなに焦らなくても、とのギルドの反応に、彼女は強かに言った。

『私は器量も良くないし、特に家事が得意とかもありません。若さと元気だけが取り柄なので、それが通用するうちに結婚したいんです』


 家族も彼女が早く嫁ぐ事を望んでいたため、ギルドは彼女の入会を認めた。積極的に集団見合いに参加していた少女は、三十歳の漁師と早々と結婚が決まった。

 男にとっては若さと健康と明るい性格が決め手で、少女は海の男が好みだったらしく、『こんなかっこいい人のお嫁さんになれるなんて』と、幸せそうであった。


 ちなみに成婚第一号は実験集団見合いをした騎士とメイドである。最初に交際に発展した一組が、とんとん拍子で纏まった。やはり価値観が近いのは大事らしい。付き合い中に特に不満や違和感がなかったそうだ。


 アンドールの企画だったため、新王都新聞に“王太子殿下が仲介!成婚第一号!”と少々大袈裟な見出しで、二人の婚礼写真付きで載せてもらった。その紙面はギルドのエントランスの壁に、額縁入りで飾ってある。


 着実に実績を作るうちに、ギルドの施設の厨房や部屋の空き時間を活かし、チックボーン夫人によるマナー教室や、珍しい菓子作り教室など、平民女性を相手に募集をすれば結構応募があり、それなりの授業料が掛かるのに毎回盛況である。

 夫人や菓子職人に講師代も払うから、その分は王太子の懐を当てにするわけにはいかない。あくまでも相談所の隙間事業で、ギルドは場所を提供しているだけである。施設維持費代も掛かるのだ。

 

「男の習い事ってないすね」

 きっかけはカルフェルグの何気ない一言。


「男性って仕事が忙しくてそんな時間なくない?」

 尤もなイリエ。


「そうね。習い事に来るのは独身のお嬢さんや、そこそこのお家の奥様だし。時間があるんじゃないかしら」と、ドロシー。


 貴族からマナーを学ぶと所作も綺麗になるからと、意外に年配女性の受講も多い。


「俺、護身術やサバイバル術、教わりたい!」

「あ、それなら俺も習いたい」

 カルフェルグにギナンも乗っかる。


 試しに教室を開いてみた。冒険者ギルドへの依頼で来てくれた講師は、元王宮騎士で現冒険者の男性だった。


「ねっ、需要あるでしょ」

 カルフェルグの言う通り、不健康そうやら体力不足やらの男性が集まった。運動不足でもなさそうな筋肉質の猟師は「サバイバルの言葉に惹かれて」と楽しみにしていた。


 護身術はともかく、サバイバル技術なんてどこで使うのかなんて女性陣の疑問に、カルフェルグは「男のロマンすよ」と何故か得意げだし、ギナンは「有事の時に生き延びる」と慎重なのか危機感が強いのか分からない答えを返した。

 そうして、彼らはちゃっかりと受講しているのである。



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