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ホームに吹き込んでくる風は冷たかった。3月だと言うのに、神様と言う奴はよっぽど『愛し子』を試練に合わせたいらしく、風だけは2月上旬と言ってもよかった。
「朝倉さんは来ていないようだね」
浅田の一言が俺をより落ち込ませ、ほとんど雪嵐の中にいる気分になった。
周一郎ばかりじゃない、いよいよ朝倉家を出て行こうとする俺の見送りに来たのは、仕事の関係でもう少しこっちにいる浅田だけと言う侘しさ、お由宇は例の如く何やかやあって家を離れており、厚木警部は今回の事件の収拾に忙しく……これもまた例によって例の如く周一郎の名はほとんど出なかった。宮田は病院で新たな課題を与えられたとかで研究室に籠り、周一郎はあの夜から俺と顔を合わせていない。
今朝も、出立の日だからと部屋を訪ねたものの、取り次いだ高野は、気の毒そうな顔をして「午前中に片付ける仕事があるのでお会い出来ない、とのことです」とだけ、周一郎の意向を伝えた。
「落ち込んでいるみたいだね」
「………」
落ち込みもするわい、と心の中で答える。
結局、俺とあいつの繋がりってのは、この程度のものだったんだろうか。距離が離れると心まで遠ざかる、袖擦り合うも多少の縁、とふざける飾り文句程度の。結局、俺一人が空回りして、あいつの一番近くにいるような気になっていただけで、周一郎にとっては、いつか言っていたように、単に興味のある人間、程度だったんだろうか。
加えて、あの夜周一郎を泣き出させた原因の一端が俺にあるらしいとは見当がついていて、それが一層落ち込みに拍車をかけていた。
「そうだ。佐野さんから、これを預かっていた」
「え?」
浅田が白い封筒を出し、俺はその場で封を切った。薄く透けるグレイがかった便箋、濃い青の文字が上品に並んでいる。
『見送りに行けなくてごめんね。
また連絡を下さい。
もっとも、あなたの場合は、連絡がなくても、騒ぎの中心を探せばいいんでしょうけど。
由宇子
追伸 周一郎は本当のことを話した?』
(本当のこと?)
暗殺予告を出していたのは自分だったってことか?
「滝さん…」
「うん?」
「…多木路家には……行かないそうですね」
「…ああ」
浅田の声に俺は頷いた。便箋を封筒に収め、ボストンバッグに突っ込む。
「なぜです?」
「……」
浅田の声に、両親との光景が去来した……。




