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『そして、別れの時』〜猫たちの時間13〜  作者: segakiyui
6.指令T.A.K.I.

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2

「慈ーっ?!」

 おい、んなもん、みすみす周一郎の命をくれてやるってのと同じじゃねえか、いくらお前が周一郎のライバルだからって、やっていいこと悪いことがあるんだぞ、と抗議したかったのは山々だったが、叫んだ一言で俺の頭は見事に砕けた。呻いて頭を抱える俺の耳に、苦笑混じりのお由宇の声が届く。

「喚きなさんなって言わなかった? それに、大丈夫って言ったでしょ? 木暮に周一郎は狙えても、慈には周一郎を狙えないわ」

「へ? どうしてだ?」

「……周一郎はね、慈にとっては憎しみの対象でもあるけど、憧れの対象でもあるのよ。自分がどれほど望んでも永久に辿り着けない存在、としてね。逆かも……知れないけど。永久に辿り着けない憧れだから、その激しさを憎しみにするしかなかったのかも」

「あのなあ、お由宇…」

 俺は上目遣いに、相手の整った顔を睨め付けた。

「何度も言うようだが…」

「「間接話法は止めろ」」

 俺のことばにぴったりお由宇が重ね、にっこりと艶やかに笑った。

「知ってるなら、どうして…」

「それも愛の一つだと言ったら?」

「え…」

 どきりとした俺に、お由宇はふふっ、と軽く笑った。

「本気にした?」

「この……っ……病人を揶揄うなっ!!……っっ!」

「あーらら…」

 喚いた俺は必然的に再び頭を抱え込み、コーヒーをこぼし掛け、お由宇はくすくす楽しげに笑った。ったく……サドかよ、知らなかったぞ、そんなの。

「…で、現実、の方だけど」

 口調を改めたお由宇に顔を上げる。

「あなた、極めて危うい立場に居るわよ」

「へ?」

「第一発見者を疑って言うのは、捜査の基本でしょ?」

「ああ」

「木暮が死んだ時、側に居たのは誰?」

「え、そりゃ俺……え…? お…おい!」

「はい」

「ちょっと待て! 俺は殺ってない!」

「と、大抵の犯罪者は言うものよね」

「あれは、奴のシャンパンに毒が入ってたんだ!!」

「残念ながら」

 お由宇はさらりと髪を払った。

「毒が検出されたのは、木暮のシャンパングラスだけよ。もちろん、他の、同じウェイターが運んでいたシャンパンには異常なし。現にその中の一杯を、慈が飲んでいるわ」

「でっ…でも……えーと……じゃあ、誰かが、木暮のグラスに毒を入れた!」

「そうね」

 お由宇は初めて頷いた。

「それは同意するわ」

「だろっ? だから、俺じゃなくて…」

「その、誰が入れたか、だけど。広間からあの部屋へ行くまでに誰かとすれ違った?」

「いや?」

「部屋に入った後、誰か来た?」

「いや。入ったすぐ後に、木暮が鍵をかけて……あ」

 待てよ? そうだ、木暮は鍵を掛けたんだ。で、それを開ける前に、俺は殴られて…。

「部屋の中に居たのは?」

「俺と……木暮…」

「シャンパングラスに毒を入れられるのは?」

「俺……待、待てっ!」

 俺はふわふわ漂い職務放棄する脳細胞を必死に掻き集めた。

「こんなのはどうだ?! 木暮が自分で毒を入れた!」

「…ない、とは言えないけど……理由は?」

「えーと……その……自殺!」

「動機は?」

「世を儚んで、発作的に!」

「発作的に、『あなた』を誘って自殺したわけ? 最愛の慈を放っておいて?」

「う」

 行き詰まった。

 だが、俺は木暮を殺していない、断じて殺っていないんだ。だから、何か、盲点があって、そこを突くことができるはずで……。

「…あ、窓! 窓は開いてただろ?!」

「あら、凄い」

 お由宇はまたにっこりと笑った。

「それ、当たってるわ。無理やりドアを押し破った時には、確かに窓は開いていたの。けどね」

「『けどね』?」

「木暮が『死んだ時には』、窓は閉まってたのよ」

「……え?」

「使用人の一人が、外の針葉樹の手前のぬかるみに、土を蒔いてたの。お客様達の散歩のために。そこでたまたま、あの部屋を通りがかった時、中の光景を見ていたってわけ。木暮が血を吐いて倒れ、側にあなたが突っ立っているという光景を。その時、窓は『閉まっていた』」

「……」

「犯人は誰かしら?」


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