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「ふ…あ……ああ…あ……」
思い切り派手な欠伸を一つして、俺はもそもそと『ソファ』から起き上がった。
「もう…朝かよ…」
ぼやけた目を擦りながら、立ち上がり、窓に近寄る。
「…んっ……とっ…はっ…」
窓を開け放ち伸びをすると、冬の冷気が全身にしみ込み、思わずぶるっと体を震わせた。
寝たのか寝てないのかわからない一夜で、プレーンヨーグルトよろしく蕩けていた脳みそが、慌てて身を竦めて原型に戻って行く。『睡眠優良児』の俺が(もちろん厄介事に巻き込まれている時は別だ)何もなくて眠れないわけはない。
「ふっ……ふえっ…ふ……っえっくしょいっ!!」
くしゃみをして、慌てて窓を閉めた。スチームヒーターの温もりを求めて部屋の中央に戻りかけ、テーブルの上に置いた白い便箋に目を止める。嫌になるほど読み返した手紙だが、読めば読むほど迷うばかり、差出人の浅田国彰ってのは、小さい頃よっぽど迷路遊びが好きだったんだろう。
結局着替えずに眠ってしまったカッターシャツとジーパンの上にセーターをひっかぶり、便箋に書かれた内容を改めて読んだ。歯切れのいい、断定的な文章は、最後の一行でふいに優しいためらいを含む。
『…ということだ。向こうはそれを望んでいる。君も過去は色々あるだろうが、出発点を知っておくのも悪くない。会ってみないか?』
(会ってみないか?)
そのことばは心の中で再び反響を呼び起こした。不思議な音色で鳴り続け、緩むことも消え去ることもなく、胸の中に広がり続ける。昨夜の俺は一晩中、そいつとお付き合いしたという訳だ。
手紙から目を上げ、部屋の中を見回す。壁際のベッド、部屋の中央のソファセット、窓際の机と椅子、広々とした室内を外の冷気から守る大きな窓の向こうに、窓に収まりきらぬ広大な朝倉家の庭があった。
確かあそこだった、周一郎が転がり込んで来た窓は。
「……4年……か」
呟いた声は思ったより低かった。