五話 憧れのマイホーム
翌朝、宿から受付に行くとマリアンジェラさんが待っていた。
私の噂はギルド内に既に広まっていて、時々
「マリアンジェラー!可愛い子を独り占めするなよー!」
など聞こえてくる。恥ずかしい…
気にしないようにマリアンジェラさんと向き合う。
「家を借りたくて、あの、家、案内してくれますか?」
「いいわよ、一応借りれる家は探しといたからこの中から選んでくれる?」
「わざわざありがとうございます」
ただ私を吸いたい人かと思ったらちゃんと私を気にかけてくれていた。
探してくれた家は集合住宅から豪邸まで家賃順に並んでいて間取りなども全て記載されていた。
前世の癖でつい逃走経路などを確認してしまう。
その中で一ついい家を見つけた。おそらく武器屋だった家で、武器の収納庫もあり
逃げるための動線も確保できて襲撃があっても余裕で逃げ出せると言うものだ。
無論、襲撃など起きてほしくは無い。
「この家って何処にあるんですか?」
「じゃあ、案内がてら街の紹介でもする?」
「お願いします」
昨日街の紹介はされたがほぼ観光だったので街の地図などを知りたい。
一通り案内されてこの街について色々分かった
まずこの街はアングトラーダの片側に扇形に広がっていて、川から離れるごとに海抜が高くなっている。
1番川に近いところはルンゴルメと言うらしく漁師の家や港、飲食店、工房が多い。
ここに冒険者ギルドは設置されている。ちなみに我が家もここだ。
そこから1キロほどで次のエリアのオーヴィアというところになる。
ここは主に商人や騎士の街で冒険者ギルドと魔導ギルドを除くギルドがある。
その先は大学などがあるエリアで魔導師ギルドはここにあるとのことで壮麗な空中に浮かぶ塔など
ファンタジー色の強いエリアだった。
そして一番上のエリアは貴族の屋敷や役所のあるエリアで住所の登録など各種申請はここで行うらしい。
またこの街の警備組織は冒険者が一年ごとに交代で就いているそうでB級以上の冒険者の中から抽選で決まるそうだ。
その仕事は警察のような仕事や城門の守護、消防や救急まで担っているとのこと。
また有事の際はランク関係なく冒険者がこの街の防衛に選ばれるそうだ。
街の案内が終わりようやく新しい我が家に着いた。
白い漆喰で固められた2階建ての家で中世のイタリアにありそうだ。
私は中世ドイツ風の木造建築を想像していけど、結構こっちもオシャレで綺麗。
マリアンジェラさんから鍵を受け取り中へ入ると驚いた。
工房だとは聞いていたが銃職人も工房だったのだ。驚いて(二回目)驚いている(三回目)
これだと弾切れを回避できると思うと驚いた(四回目)。
まずは、慌てず、騒がず、落ち着いて。これ大事。
弾を確認するとなんと7.62×54ミリ弾だった。え!?まじ!?は!?まじ!?
なんと、ドラグノフの薬莢と同じ寸法なのだ。驚いて驚きまくり驚愕した(七回目)
これで、弾切れは無くなった!弾薬を自給自足できるよ!
多少汚れているがこの勢いで掃除してしまおう。
風魔法「ストーム」で埃を払う、その時急に激しい頭痛がした。
頭を締め付けられているかのような痛みが永続的に続く。死ぬかと思いその場で座り込んで落ち着くまで待った。
ステータス欄を見るとMPが0になっている。MPが切れると頭痛がするらしい。
今度からは気をつけよう。ともかく、掃除はMPの枯渇という犠牲と共に終わった。
掃除の終わった部屋を見渡すと、使われてなかったとは思えないほど綺麗に整理されていてもう掃除を終わっていいと思うくらい綺麗だ。
2階がちゃんと住めるか確認する。2階はベッドルームと居間、そしてトイレだった。
部屋は白を基調に綺麗にまとまっている。イタリアの家はこんな豪華なものなのだろうか?
はたきで埃を払う。魔法は便利だがMPがまだ少ないから、場面を選んで使いたい。
掃除が終わったので、まだ聞いていなかった家賃の事を聞きに行く。
家は少し高台にあるので飛んで行こうと思い翼を広げ、助走をつけて飛び立つ。
心地良いので少し飛んでから行くことにする。
川の上で上昇気流に乗り高度300メートルくらいまで舞い上がる。
この街は本当に綺麗だ。フェセンハルツさんは帝都はもっと綺麗と言っていたけどこれより綺麗とはどのようなものだろう。
私の生まれた ソビエト(現ロシア、ソビエトは構成国が無くなっただけで崩壊していない)にはこのような綺麗な都市はなかった。
満足したので、降りてブルーバードへ向かう。知らぬ間に着地もできるようになっている。
ギルドに入るとマリアンジェラさんが何かを持って待っていた。
「こんにちは、家賃の話をしに…」
「分かってるよ、見積もりももうできてる」
「ありがとうございます」
もう見積もりもつくってくれてたらしい。これだけ私のことを見てくれてるなら吸われても仕方ない…いや仕方なくないだろ…優しさに飲まれてしまうところだった。
ともかく、席に着く。
「それで、月なんStellaぐらいなんですか?」
「んとね…月1300Stellaだね。この大きさの家としては破格の価格だよ」
「1300Stella…稼げるかな…?」
「冒険者してたら一つの依頼で500Stellaくらい入ってくるから、いけるよ
それに、ナターシャちゃんはソロでやるの?」
「ソロって何ですか?」
「冒険者と言っても複数人でパーティを組んでする人と一人でする人がいる。
その一人でする人のことをソロって言うの。
パーティもソロもそれぞれメリットデメリットがあって、例えばパーティで多いのが報酬の取り合い。
貴女みたいな射手、私もだけど、はあまりいらないと思われてることが多いから
報酬も少なくなりがち、だけどパーティだと生存確率が高まるからパーティを選ぶ人は多いわ。
ソロは報酬の取り合いとか人間関係の問題はないけど一人だから死んだ時に遺体をどうすることもできず、最悪アン デッドになる可能性もある。まあ、結局人間関係でソロを選ぶ人も多いけどね」
「へぇ」
私は今まで仲間をとったことは無い。なぜなら致命的なことに私には話を続かせる力が全く無いのだ。
人と仲良くしたいが、自分から話題を振っても二言三言しか続かない。
話題を振られても返答しようとしている間に話題が終わってしまう。
友達もそれを理解して友人付き合いをしているが、迷惑をかけていると自覚している。心苦しい。
もちろん今回もソロを選ぼうかな。
「私はソロでやるつもりです」
「分かったわ。最低階層のFランク冒険者の月収は大体1500Stellaで一月に何個の依頼をこなすかで変わってくるわ。
Dランクになると報酬も大分高くなるから怠けない限りお金に困ることは無い。
その上になってくると武器、防具で大分金食うから支出も多くなるけどその心配はその時ね」
「そうなんですか」
「さあ、住むならこの誓約書にサインしてちょうだい」
「分かりました」
誓約書を読んで気付いた。この国の言語が読める。何故かは分からないが嬉しい。
誓約書は家を壊しませんなどの簡単な文章が書いてあって、そこに血版を押すらしい。
ペーパーナイフで指先を切り血を垂らすとカモメをモチーフにした美しい紋様が誓約書に浮かび上がった。
マリアンジェラさんによると個人を表す紋様で一人一人違う紋様らしい。
個人認証が簡単にできるとは便利なシステムと思う。
手続きが終わりブルーバードを出ると夕方だった。
夕日に染められた街を飛びながらこれからどうするかを考える。
これまでは勢いで何とかなったがこれからは自分で稼いで生きていかなければいけない。
依頼をこなせば稼げると言われたが、どのような依頼があるかは知らない。
落ち着いたら依頼を受けてみようかな。
家に入りご飯を食べていないことに気づく。食堂はあるのだろうか、お金はもらった3000Stellaの残りがまだある。
少し歩くと屋台があった。今日はここで食べて、明日からは自炊しよう。
「すいませーん、空いてますか?」
「空いてるよー!何食ってくかい?」
「おすすめお願いします」
「あいよ!」
この流れは万国共通らしい。ここの人とうまく接せるか心配だったがこれなら大丈夫そうだ。
おすすめは街で取れた川魚の串焼きだった。生臭さも無く美味しい。
こんなに美味しい食事を食べれて嬉しい。
さあ、明日は買い出しに行かないと、英気を養うためにも今日は早めに寝よう。おやすみ
読んでいただきありがとうございました
今日はここまで投稿します