第十六話 旅の記憶
「今から120年前、『シーホーク』という海上傭兵団が結成されました。設立したのはゴベルナトーレ・シーホークとその仲間51人。シーホーク彼の名を冠した12ポンド砲24門のフリゲートを有していました。
本拠地はステランペロ帝国最大の港フォルテッツァ。
メンバーは少ない資金を集め燃料を購入しギリギリながらも楽しい生活を送っていました。
彼らは『勇敢」『忠誠」『正義」を掲げまさに海の騎士になろうとしていたのです。
初期は貧弱な装備ながらも損傷を恐れない勇敢な砲撃で着々と名を上げていきました。
そして113年前帝国歴207年。『シーホーク』に魔導エンジンとその時最新兵器だった魔導魚雷を装備し迎えたステランペロと東の隣国『ガド聖教国』との戦い『星神戦争」で先遣隊として雇用されます。
戦争において先遣隊は死を意味する。
しかし、彼らは勇敢にステランペロ本土から南東に300キロに浮かぶガドの精強を誇る200の戦列艦にステランペロ護衛艦隊と共に6隻で向かっていきます。
それは後にステランペロ沖大海戦と呼ばれる戦いの始まりでした。
帝国歴207年7月13日午前8時49分。ステランペロ護衛艦隊のうちの一隻、護衛艦『キャバリエ・ローズムーン』がガド戦列艦隊先遣隊8隻を発見。この情報はすぐに本国、北上していたステランペロ南洋艦隊、そして『シーホーク』に伝えられ全艦が戦闘体制に就きます。
魔導レーダーを装備していた『キャバリエ・ローズムーン』を先頭に単縦陣、縦一列に並ぶ陣形ね、をとりガド戦列艦隊に対して斜めに近づき始めました。
ステランペロのフネは
フリゲートの『シーホーク』
『ジェネラーレ・アランツァ』
スループの『キャバリエ・ローズムーン』
コルベットの『モルテ』
偽装商船の『コメリシアンテ・マルコ』
輸送艦の『タータルガ』
ガドは
フリゲートの『ジャーンクロス』
『アミラール・ランヴァルド』
『バンピアー・クリステル』
『スノイト・ベルグ』
スループ『エーデル・イヴァン』
魔導ガレー船の『リエマンネン』
そしてコルベットの『オウン級』が2隻
午前9時3分。
両艦隊の距離が2キロに近づいた時『シーホーク』がガド戦列艦隊の先頭『ジャーンクロス』左舷にに6門中3本の魚雷を発射。それを引き金に砲戦が始まったのです。最初に被弾したのは『ジャーンクロス』、『シーホーク』から発射された魚雷3本が命中、喫水線下に大穴を開けられた『ジャーンクロス』は音を立てて轟沈。その煙の中からガド戦列艦隊30門級戦列艦『バンピアー・クリステル』の放った砲弾がステランペロの最後尾の擬装商船『コメリシアンテ・マルコ』に被弾。擬装商船故の貧弱な武装は砲弾を受け止められず砲弾は弾薬庫内で炸裂しました。
『コメリシアンテ・マルコ』は巨大な火柱を立てて大破。そこからステランペロ帝国艦隊は『シーホーク』を先頭に変えました。ガド戦列艦隊に与えられた任務は『シーホーク』の撃沈。ステランペロに与えられた任務は敵の全滅。この戦力差では全滅は不可能だと考えられていました。
しかし、9時21分。
輸送艦『タータルガ』から2艇の小型機雷艇が飛び出します。ガド聖教国は砲戦を中心に考えていたため、機雷など考えてもいなく、回避が間に合わなかったガド戦列艦隊スループ『エーデル・イヴァン』が大破、フリゲート『スノイト・ベルグ』が小破する被害を加えました。
撃ち合いは続き午前9時46分
両艦隊の距離が1キロを切りました。ここまでくると砲弾を外すことはほぼありません。
『シーホーク』が片側に指向できる12ポンド砲12門をガド戦列艦隊フリゲート『アミラール・ランヴァルド』に発射。12発の弾は上部構造物を吹き飛ばし、戦闘不能に追い込みます。
そこに間髪入れずにステランペロ32門級フリゲート『ジェネラーレ・アランツァ』が16発の砲弾を発射。
しかしそれはガドのコルベット『オウン級』の一隻を小破させるにとどまりました。
その後、ガドのすでに時代遅れになっていたガレー船『リエマンネン』が艦列を抜け突撃してきます。それはステランペロのコルベット『モルテ』に向かいました。『モルテ』も足の速い船だったが魔導ガレー船に追いつかれ必死の反撃も虚しく『モルテ』の横腹に強烈なラムアタック(衝角でぶつかる攻撃)をします。
脇腹に大穴が空いた『モルテ』に海流が流れ込み大きく傾きます。そしてそのまま海に沈んでいきました。
攻撃した『リエマンネン』には一気に目標が向き残存艦『ジェネラーレ・アランツァ』『シーホーク』『キャバリエ・ローズムーン』『タータルガ』の砲弾の嵐が飛びます。爆発の後、『リエマンネン』がいた場所には何も残っていませんでした。
残存艦は
ステランペロが
『シーホーク』
『ジェネラーレ・アランツァ』
『キャバリエ・ローズムーン』
『タータルガ』
ガドは
『バンピアー・クリステル』
『スノイト・ベルグ』
『エーデル・イヴァン』
『オウン級』が1隻
鑑数は同じになりました。しかし敵側はフリゲートが3隻、こちらは2隻と不利な状況は変わりません。
『バンピアー・クリステル』が『タータルガ』に15発の砲弾を放ちました。15発中6発が『タータルガ』に命中、『タータルガ』は大破し戦線離脱を余儀なくされました。
午前10時7分。
『シーホーク』が2発目の魔導魚雷を発射しました。狙いは残った一隻の『オウン級』。
6本の魚雷は1直線に『オウン級』に向かい2本が命中します。2本とはいえ魚雷の威力は大きく致命症を与えるには十分でした。傾き始めた『オウン級』は沈み始めました。ゆっくりと『オウン級』は海に飲み込まれ、すぐに海中に消えました。次に攻撃を始めたのは『バンピアー・クリステル』と『キャバリエ・ローズムーン』互いに攻撃を始めます。どちらも弾薬庫には強靭な装甲が施されいるため中々燃え上がらず、互いに上部構造物を破壊し負傷者をいたずらに増やすだけです。砲弾の装填を完了した『ジェネラーレ・アランツァ』が加勢します。『ジェネラーレ・アランツァ』は最新鋭の24ポンド砲を搭載していて『バンピアー・クリステル』の装甲を貫くには十分な性能を持っていました。24ポンド砲は簡単に『バンピアー・クリステル』の弾薬庫を突き破り『バンピアー・クリステル』は大爆発を起こしたのです。
午前10時21分。
これ以上戦っても勝機が無いことを悟った『スノイト・ベルグ』と『エーデル・イヴァン』は白旗を上げ降伏しました。
7月14日
帰港した『シーホーク』『ジェネラーレ・アランツァ』『タータルガ』『キャバリエ・ローズムーン』は戦力差がある中で大活躍したとして歓喜の声と共に迎えられます。
各艦の艦長は2階級の昇進と乗組員には昇給が与えられ、傭兵であるゴベルナトーレ・シーホークには民間人としてかなり高い称号のカルロ級祖国英雄称号が与えられます。
『シーホーク』には将軍の称号を与えられ『ジェネラーレ・シーホーク』を名乗ることを許可されました。
物語はまだ続くけど聞く?」
マリアンジェラが聞いたがナターシャの意識はすでに夢の中だった。
「もう寝ちゃったか」
マリアンジェラは苦笑し、ナターシャを愛でるように軽く撫でると軽く抱きしめ、意識を夢に落としていきました。