試験本番其の二
無防備と言えるほどの自然体でこちらに向かって来るガリレオに警戒しつつ、試験前待機していた小講堂で見た幾人かいた仲間を記憶から思い起こす。周囲に仲間の気配が無い事に疑問を覚え探査魔法の出力を上げ、索敵の範囲を広げる。
「どうした?まさか俺のことを忘れたわけではあるまい?」
「ハッ、まさか。わざわざ俺に倒されに来たことに驚きを隠せなかっただけだよ間抜け」
「・・・・・・相変わらず口が達者なやつだ」
相も変わらず一切探査に引っかからない仲間のことを一度棚に上げ、防御の魔法を使い戦闘に向け準備を行なう。
「〈自動風壁〉・・・・・・?」
目の前で魔法を使っている事に対して警戒する素振りすら見せずガリレオは不敵な笑みを見せ続ける。その姿に言い表せない不気味さを覚える。
「その余裕がどこまで持つか見ものだな。〈風弾〉」
「ふっ」
余裕の笑みを浮かべ、俺の魔法に直撃する。大量の土煙が舞い、ガリレオの姿が隠れる。
「?確かにそこに居たはずだが。・・・・・・・・・・・・ッ!?」
風を操り土煙を退ける。数瞬前まであった姿が消え周りを見回し、──即座に後ろに飛び退く。
(おかしい。明らかに居たはず、魔術も探査には引っかかったが目視できなかった)
「チッ、〈風斬〉!!」
再び、見えない魔術を避け飛んできた方向に向け〈風弾〉より範囲の大きい魔法を使い迎撃する。何本かの木を切り落としながら進む魔法に予想通り手応えを感じず周囲の索敵に専念する。
姿が消えた後も続けていた探査に、未だ一切の反応を見せない事にいくつかの可能性を思い浮かべる。
(透過もしくは地中だろうな。俺の魔法はどうしても実体を持たないものや風の通らない場所は探知できないからな。透過の魔術もしくは固有技能はそう長くは持たない。地中に潜ってる場合は空気穴でもあるだろうし、探ることはできるだろうが時間がかかる。持久戦だな)
思考を続けている間も全方位から絶え間なく向かってくる見えない魔術を避け、捌きながら敵の発見まで時間を稼ぐ。明らかに一人で発動しているとは思えない程の魔術の量から複数人からの攻撃であろうと考えこのまま続けていると魔力が持たない事を悟る。
(このまま続けてたらこっちが先に魔力が尽きるな。この後もある以上あんま魔力を消費しすぎるのは得策じゃない。なら、選択肢は一つ!)
「姿見せないんなら逃げるに限る!」
取り敢えず先程ガリレオの居た場所から反対の方向へ向かい走る。途中魔法により走る速度を上げる。普通に走っていた時と比べ、段違いの速度で森を駆け抜け未だ上がり続ける炎柱へと駆けてゆく。
俺が逃走を開始するのと同時に地面から現れた追っ手を背に感じながら走り続ける。
「・・・・・・逃さない」
「ッ来ると思ってたよ。あそこまで挑発してきた奴が簡単に獲物を逃すわけ無いもんなぁ?」
横から正確に首を狙ってきた大鎌に冷や汗をかきながらもギリギリで躱し、狙い通りに追いかけて来た事に思わず笑みを浮かべながら攻撃して来た相手に向かい言葉を返す。
「む、避けられた。絶対当てたと思ったのに」
女子生徒特有の制服の上からパーカーを着て、フードを被った少女が体勢を立て直し大鎌を構える。小柄な体型とはあまりにも合わない大鎌を構えるギャップから思わず笑いが漏れた。
「むぅ、笑われた。悔しい。悲しい。ムカつく」
「あぁ、悪い悪い。別に馬鹿にしたわけじゃ無いんだ、ただあまりにもギャップがすげぇなって思ってな」
「?よく分かんないけど、ならいい」
無表情のまま感情を口にする大鎌少女に軽く謝罪しながら、その合間にもいくつかの〈風弾〉を飛ばし様子を窺っていたがその全てを細腕で振り回しているのが嘘みたいな速度で切り落とされる。ほとんど発動と同時に対応していた事実にほんの少し唖然としつつ警戒度を上げる。
「お前一人なのか?他の仲間は?」
「・・・・・・言わない」
「なるほど。他にも仲間がいるのか、教えてくれてありがとう」
「む、しまった。やっちゃった」
無表情ながら意外と会話に乗ってくれる大鎌少女へ俺は好感を覚える。その間にも再び大鎌を構え直しこちらに攻撃せんとし大鎌少女が大きく踏み込み十メートルはあったであろう距離を易々と詰めてきた。あまりの速さに面食らい迫りくる大鎌への対処に若干ながら遅れ事前に展開していた〈自動風壁〉により防がれる。
「ッ!?」
しかし、小柄な体躯からは想像もできないほどの力によって大きく後ろに吹き飛ばされる。風を操り素早く体勢を整え、吹き飛ばされた方向に向け複数の〈風弾〉を周囲に浮かべ迎撃する体勢となる。
その時、だった。
完全に意識の外からゴッッ!!!という音と共に大量の飛来物が風使いの少年をとらえた。
先程同様〈自動風壁〉により防ぎきりなんとか脱落を防いだが、完全な意識外からの飛来物に驚愕しつつ周囲に浮かべていた風弾を飛んできた方向に向かい飛ばす。
大鎌少女同様、地面から現れたことで探査にかからない原因を把握し、思考を切り替え先程よりもより探査魔法へと魔力を注ぎ、風のとうりにくい地面にも行き渡るように密度を上げた。
俺は風壁により防いでいた合間に、再び地面へと消えていった人影を追いかけるように先程飛来物の飛んできた場所の地面へと再び〈風弾〉を叩き込んだ。しかしあまりの手応えの無さに軽く舌打ちをし、横から迫ってきた大鎌を大きく身体を逸らし避け、ほんの少し無防備になった大鎌少女を風により大きく吹き飛ばし距離を取る。
「うーむ、あの大鎌少女が厄介だな。やっぱ近接戦は苦手だな〜」
愚痴をこぼし、温存するつもりだった魔力を解放する。
「〈裂葉風〉」
〈風斬〉を遥かに超えるサイズと鋭さを持った風が背後へと回り込んできた大鎌少女に直撃した。ギリギリ大鎌の柄で防いでいたのが見えたがそれでも尚大きく、木々を次々にへし折りながら吹き飛んで行く。数秒ほど音が続いたのち、あたりに静寂が訪れる。
しばらく待っても脱落音が鳴っていない事からトドメを刺そうと走り出そうとしたところで地面から迫り上がって来た土壁に進路を阻まれ二の足を踏む。土壁が地面へと戻って行きそれと入れ替わるかのようにガリレオを含む試験前小講堂にて集まっていた大鎌少女を除く残りの五人が姿を現した。
「こっ、ここから、先には、いっ、いかせましぇん!!」
鮮やかな茶髪を後ろで一つにまとめ、眼鏡をかけたいかにも委員長然とした気弱そうな女子生徒が俺に向かって威勢よく吠える。
「ようやく出てきたか。挑発して来た割に隠れてなんもしねぇからてっきりビビって逃げたんじゃ無いかと思ってたわ」
「なに、タナトス女史にいい様にやられている貴様が見ものでな。すっかり動物園にでもいる気分になって出る機会を見失ってしまったよ」
「おいおい、んな幼稚な頭してっから六位とか言う中途半端な順位とんだよ。間抜け」
「安い挑発だなシエル・デミウルゴス。この状況に焦っているんじゃないか?いくら特待生とはいえ、我々の実力はそう離れているわけじゃない。この状況で貴様に勝ち目などもとより無い。無駄な時間など使わず大人しく降参し脱落しろ」
そう言ってガリレオは右腕を前へと突き出し、攻撃魔術の陣を浮かべる。そうこうしているうちにガリレオ達の背後から大鎌少女もといタナトスと呼ばれていた少女がその横へと並ぶ。六人全員が揃ったことにガリレオは笑みを深くし再度言う。
「貴様に勝ち目は無い。無駄な時間など使わず大人しく降参し脱落しろ。第四位シエル・デミウルゴス!」