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風使いは自由を夢見る  作者: マタタビ
2/5

試験前其の一

 * * *


 地獄にような光景だった。


 森のあちこちから火が噴き出し、木が折れ、大地が吹き飛んでゆく。耳をすませば、そこかしこから何かが爆発する音や風切り音が聞こえてくる。そんな地獄と化した森の中をシエルは身に風を纏い、駆け抜けていく。


 少し遅れて何人かの人影が追随するかのようにシエルを追い地面を蹴る。


 追いかけてくる人影にげんなりしつつ、魔法を使い木を切り倒しながら追いかけてきたうちの一人を吹き飛ばす。

 走りながら、どうしてこうなった、と声にならない声でシエルは一人でに愚痴った。



 時は二日前に遡る



 * * *



 無事に遅刻を免れ、入学式を終えたシエルは生徒会役員の指示に従い、学科ごとに分かれてそれぞれの学科ごとの小講堂へと移動していた。


 先ほどの大講堂に比べ、十分の一程度の大きさの英雄科専用の小講堂。

 中には、英雄科新入生二百人と幾人かの生徒会役員、教師が集まっていた。

 先ほどの壇上に比べ、些か絢爛さに欠ける壇上の上に立つ、右の目を眼帯で隠した強面も男が口を開く。


『はじめまして、新入生諸君。私は英雄科学科主任を務めているグレイだ。諸君らに集まってもらった理由は主に二つある。一つ目は簡単なこの学科の教育理念を説明をするため。そして二つ目はクラス編成についてである』


 前置きを置いてから右目の眼帯が特徴的な男──グレイが説明を始める。


『ではまず一つ目、諸君らも知っての通りこの学園は六つの学科で構成されている。その中でも最も歴史が古く、世界的な知名度を誇るのが我らが英雄科である。英雄科の目的は戦闘における時代の英雄の育成にある。そのため、これからの学園生活において諸君らには戦闘に必要であるありとあらゆる専門的な講義をうけ、将来的に世界を一歩前進させる、そんな人物を目指してほしい』


 これが一つ目である、と区切りをいれグレイは二つ目について喋り始めた。


『次に二つ目、諸君らのクラス編成についてである。例年通りに行くならば入試時の成績順となるところだが、今年からの新たな試みとして諸君らには“クラス編成試験“をしてもらうこととなった。この試験の結果と入試試験の点数をもとにクラス編成を行う』


 ざわざわ、とグレイの発言によって新入生全体に大きな混乱が広がる。


『諸君らの混乱も理解できる。だがこれは学園側の決定でありすでに決まっていることである。そのため諸君らにはそのことを十分に理解した上で心して試験に臨んでほしい。試験開始は二日後、詳細は事前に配布した端末に送っておくため各自で確認すること。説明は以上だ。それではこれにて学科オリエンテーションを終了とする。周りの教師、生徒会役員の指示に従い順次帰宅してほしい。』


 グレイの話が終わり、学科オリエンテーションの終了を告げた。

 周りにいた教師陣や生徒会役員が新入生の案内を開始する。

 そうこうして俺は小講堂を出て帰路についたのだった。



 * * *



 クラス編成試験ルール・概要



 ①新入生学科オリエンテーションの二日後、午前八時から午後一時までの計五時間を実施時間とする。

 ②実施場所は当日発表とする。

 ③生徒はHPリングと言われる一定ダメージを肩代わりする魔道具をつけ、この魔道具の許容ダメージの八割を超えた

 時点で即失格となる。

 ④生徒は他生徒への攻撃をし、一人脱落させるごとに十ポイントを得る。

 ⑤失格となった生徒に対する悪意ある攻撃は発覚し次第即失格となる。

 ⑥特別な理由がない限り魔道具、魔法薬の使用、および持ち込みを禁ずる。発覚した場合即失格となる。

 ⑦試験当日、特別ルールの発表を行う。

 ⑧この試験での行動、成績によりクラス編成を行うものとする。



 * * *


 入学式、学科オリエンテーションが共に終わり、帰宅した俺はナティスと共に昼食を摂ったのち、学園から配布された専用の携帯端末に送られてきたクラス編成試験(以降クラス試験と呼称)のルール・概要に目を通す。


「どう思う?」


 大きなソファーに腰掛け、端末に表示させたルール・概要に思案を巡らせながら、隣に座っている専属メイドのナティスに問いかける。

 問われたナティスはいつも通りの無表情で淡々と口を開き考えていたであろうことを話し出す。


「戦闘が得意な生徒にとって優位なルール。・・・・・・英雄科っていっても戦闘が必ずしも得意なわけじゃない。それに、個人での戦闘を推奨してるように見える。少しは入れ替わりもあるかもだけど入試の実技成績順から大きくは変わらないと思う」


「だよなぁ。教師陣的には生徒の能力を見たいって感じなんだろうなぁ。てか多分だが脱落させる以外にも採点基準絶対あるよなこれ。補助魔術師とかはサポートの貢献度なんかで一ポイントとかか?」


「ん。そんな感じだと思う」


 ナティスの意見を参考にしつつ、俺は自分がどう立ち回れば勝ち残れるかを思案し試験への対策を練っていく。



「パーティでも組めりゃ楽だがそれはそれで点が減りそうだし、基本方針は単独行動で命大事にだな。結局のところ行き当たりばったりの臨機応変に対応してくしかねーかな。それに、それが一番楽しめそうだ」


「応援してる」


 いつも通りの静かでそれでいてはっきりとした声でナティスが言う。

 その言葉に嬉しさを感んじつつ、口角を上げ俺は試験に対して思いを馳せながら答える。


「ああ、全力で楽しむとするよ」




 五人の特待生のうちの一人、入試ランキング第四位にして風を操る少年は試験に向けて心躍らせるのだった。











〈解説〉

・特待生

各学科のうち入試にて上位五人にのみ与えられる特別制度。

様々な特典がある。

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